小豆袋を握りしめる信長(演・小栗旬)。(C)NHK

ライターI(以下I):さて、『豊臣兄弟!』第14回では、信長の妹お市(演・宮崎あおい)が嫁いだ浅井家が離反する場面が描かれました。

編集者A(以下A):義弟の浅井長政(演・中島歩)の裏切りの一報を聞いた信長(演・小栗旬)は、「ありえぬ」と一蹴します。信じられない、信じたくない、いや、そもそもそんなことは絶対にありえない――。心の底から「ありえぬ」と思っていた節があります。それだけ、浅井長政を信用していたのでしょう。

I:前週のラストで、柴田勝家(演・山口馬木也)が、浅井長政が離反したことを告げにきました。有名だけれどもどうも史実ではなさそうだという「小豆袋」のエピソードは採用されないのだろう、と思っていたのですが、週またぎで登場しました。信長は、「まことに浅井が寝返ったのならこのような気のきいたものを送ってくるはずがあるまい」と、それでも浅井長政の離反を信じようとしません。

A:ここで竹中半兵衛(演・菅田将暉)が、「その小豆はわれらのことかもしれませぬ。前と後ろをふさがれ、まさに袋のねずみ」と小豆袋の説明をしました。大河ドラマにおける「竹中半兵衛金ケ崎デビュー」になります。そして、「袋のねずみ」という表現は、「金ケ崎」定番のワードになります。

I:さらに、何も書かれていない白紙の文を察知した小一郎(演・仲野太賀)は、「市」と署名された白紙の文を見て、「何も書くことのできないお市さまの苦しみ」「浅井の謀反は明らかにございまする」と、浅井を攻めるという信長を説得にかかります。

A:大河ドラマの主人公が金ケ崎で信長に撤兵するように説得するのは、1983年の『徳川家康』、2020年の『麒麟がくる』に次いで3度目になります。

I:本作の金ケ崎は、「小豆袋」のエピソードが登場し、浅井長政が信長を「兄上、兄上」と慕う場面、信長が「なぜじゃ、なぜじゃ、なぜじゃ」と煩悶する姿……。心ならずも対決しなければならなくなったふたりの関係に照射して、見る人の胸打つ演出になっています。私もなんだか目頭が熱くなってしまいました。

A:私は、この場面を見て、信長の「なぜじゃ、なぜじゃ、なぜじゃ」という煩悶は、少なくともあと3回あるということに思いを巡らせました。それがどのように描かれるのか。「金ケ崎」と同様にそれぞれ胸打つ場面になるのでしょうか。

I:さて、信長が光秀(演・要潤)を足蹴にし、浅井の離反についても公方(足利義昭/演・尾上右近)が仕組んだのではないかと疑いました。場の空気が澱んだところで、秀吉(演・池松壮亮)が自らの足に刀を刺して、「傷を負ってしまったので」と理由をつけて、殿(しんがり)を務めることを志願します。

A:秀吉が殿を志願するのは、「金ケ崎」の定番シーンなのですが、本作のような描写は初めてです。一連の流れがスピーディーで、ぐいぐい引き込まれていきますね。

I:秀吉の殿軍の戦いには、秀吉、小一郎兄弟に加えて、蜂須賀小六(演・高橋努)、竹中半兵衛らが参加していました。けっこう尺をとって戦いの経過が描写されました。驚いたのは、浅井長政が秀吉・小一郎らと戦場で直接対峙したことです。

A:前週に、近江の常楽寺で信長と相撲をとったばかりの長政です。相撲をとった際の映像に加え、「兄上、兄上」と信長を慕う映像にかぶせるように、かつて信長が実弟信勝(演・中沢元紀)を殺(あや)めた記憶がフラッシュバックで挿入されていました。本当の弟のようにかわいがっていた浅井長政の離反が、信長にとってほんとうに信じたくない出来事だったことが強調されました。

I:信長と浅井長政の「義兄弟」の絆、信長と秀吉ら家臣との絆、「金ケ崎」で人間信長をこれだけ掘り下げたのは初めてかと思います。

A:とにかく濃い、濃すぎる「金ケ崎」。いまだかつてこれほど濃厚な「金ケ崎」があったでしょうか。掛け値なしで、大河史上最高の「金ケ崎」になったと断言します。

I:そうですね。信長が京の妙覚寺での宴で忘れていなかったのもよかったです。「さあ、とくと聞かせよ。朝倉、浅井がどれほどまぬけ面であったか」という信長のセリフも。過去最高レベル! 本当に濃厚な演出でした。信長に侍ったり、舞ったりしていた遊女たちは、まるで『洛中洛外図』に登場する遊女たちみたいでしたね。

A:今回、NHKオンデマンドで、過去作品の「金ケ崎」をすべて振り返りました。現在視聴可能な大河ドラマのなかで、「浅井家の離反」を扱っている大河ドラマは11作品あります。そのうち、6作品で「小豆袋」のエピソードが採用されています。お市の方から信長に宛てて小豆袋が届けられるのが『おんな太閤記』『秀吉』『利家とまつ~加賀百万石物語』『功名が辻』です。『江 姫たちの戦国』は小豆袋こそ登場しましたが、信長のもとに届けられることはありませんでした。『どうする家康』でも小豆袋は登場したものの、その小豆袋が届けられることはなく、「阿月(あづき)」という侍女が情報を家康に届けるという変化球でした。

逆に「浅井家の離反」を扱っていて、「小豆袋」が登場しないのが『国盗り物語』『黄金の日日』『徳川家康』『信長 KING OF ZIPANGU』『麒麟がくる』の5作品です。『豊臣兄弟!』では「小豆袋」が登場しましたので、これで「小豆袋」登場7、登場なし5となりました(1965年の『太閤記』は映像で確認できないのでノーカウント)。詳細は別途記事にまとめましたのでご覧ください。

・「女狐お市」か「純愛お市」か――。大河ドラマ過去作の「浅井家離反」を振り返る。【豊臣兄弟! 満喫リポート】小豆袋編part1 https://serai.jp/hobby/1263484
・『功名が辻』時代考証の小和田先生からダメ出しのエピソードも。それでも小豆袋は外せない!【豊臣兄弟! 満喫リポート】小豆袋編part2 https://serai.jp/hobby/1263487

秀吉(演・池松壮亮)、小一郎(演・仲野太賀)のために宴を用意して待っていた信長。(C)NHK

「元亀」の時代に信長は地獄を見る

「秘伝の薬」といって家康(演・松下洸平)が秀吉に渡したのはかゆみ止めだった! (C)NHK

I:私は家康(演・松下洸平)が「当家に伝わる秘伝の薬」と秀吉に薬を手渡した場面がツボでした。家康といえば「薬マニア」としても知られています。静岡市の久能山東照宮には家康調合の薬がまだ残されていますよね。

A:前週は秀吉に接して「あれ誰?」といっていた家康ですが、今週は認識できたようです。薬はかゆみ止めということでしたが、秀吉には効いたようです。いわゆるプラセボ効果という設定でしょうか。

I:さて、金ケ崎の退き口ですが、竹中半兵衛が「地名を記しておきました」と、生きるために用意しておいた「メモ」が日の目をみました。猫好きの私にとって「メモ」の中に猫の絵が描かれていたのがうれしかったりします。一方で、足利義昭は、信長が浅井の裏切りにあって窮地に陥ったことを知って、「元亀」の年号にすることに決めてしまいます。さらに浅井、朝倉宛の御内書を手ずから書いていました。そこに信長が帰還してきて驚愕する、という流れでした。このときの信長の表情ときたら、大河の信長史上屈指の表情ではないでしょうか。

A:ほんとうに小栗旬さんの表情はすごかったですね。この場面ですが、敢えて義昭の立場に寄り添えば、仮に信長が討ち死にした場合は、すぐさま将軍義昭の存立が危機に及ぶわけです。これはしょうがない。それだけ権力基盤が薄かったということです。ですから、「織田の家臣になり織田の動きをわしに伝えるのじゃ」と光秀にスパイになれと指示を出すのも、自らの生存競争ですから、義昭サイドに立てば当たり前のことかもしれません。

I:反信長勢力もたくさんいますからね。

A:そして、気になるのが、終盤で浅井長政がお市に対して「そなた織田に戻れ」と伝える場面です。「金ケ崎」の前に同様の台詞が発せられたことはありますが、「金ケ崎」が終わった後にこの台詞が飛び出すのは初めてのことになります。

I:これまでの作品では見たことのない展開になるのでしょうか? お市の方の身に何がふりかかるのでしょうか。

A:前週も触れましたが、「元亀」の間は信長にとって地獄の日日が続きます。

I:今週は本当に盛りだくさんでした。まるで池田屋騒動の際に吐血した新撰組の沖田総司のようだった竹中半兵衛の病状も気になりますよね。

金ケ崎の戦いに参戦したという設定の竹中半兵衛(演・菅田将暉)。(C)NHK

※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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