数多くのテレビドラマや映画に出演し、81歳の今も第一線で活躍しつづけている藤竜也さんにインタビュー。前編では、2023年5月12日公開の映画『それいけ!ゲートボールさくら組』で主演を務めるにあたり、役作りや現場での心掛けなどについて伺った。
100歳でも出るチャンスはある。動けるうち、仕事がいただけるうちは応えたい
――主演映画『それいけ!ゲートボールさくら組』のオファーがあった時の正直な感想を教えてください。
明るい話でいいなあと思いました。ちょうど、この作品のお話をいただいた頃はコロナ禍の生活が始まって1年ぐらい経った時だったと思います。今まで、飯を食ったり、酒を飲んだりしていた友だちとも会えないから、連絡を取らなくなっちゃって。コロナのせいで、ずいぶん鬱陶しい生活をしていた、しみったれた時期だったので、自分自身も元気付けられたくてね(笑)。この作品のおかげで、リフレッシュすることができました。
――80代初の主演作になります。
ありがたいと思います。そりゃ動けるうち、仕事がいただけるうちは応えたいです。例えば、台詞が覚えられなくなったりしたら、これはもうやっちゃいけないけど、そうでなければ、別に何歳の役でも。100歳でも出るチャンスはあるわけですから。
老いは生物の定め。1日1日感謝しながら、黙々とトレーニングに励むのみ
――作品のためにどんな準備をしたのですか。
元ラグビー部の役柄なので、台本にラグビーのゲームのシーンが書いてあったんです。そこに、「ものすごい勢いで突っ走る」と書いてあるから、試しに公園に行って、突っ走れるかなってやってみたんですよ。もちろん突っ走れないんだけど(笑)。足を上げて、格好だけはつけました。撮影途中で腱でも切れちゃったらやばいと思って、少しはやっておかなきゃとずいぶんトレーニングしました。
コロナ前まではスポーツクラブに行ってたんです。だけど、コロナに入ってからもぼちぼちと仕事をしていたので、もしも外で感染して患者になりでもしたら困るわけです。周りに迷惑をかけるしね。だから、なるべくリスクを避けようと思って、スポーツクラブへ行くのをやめて、近くの公園で1人、黙々とトレーニングしていました。アクション映画の出ですから、そこはもう習い性になっていてね。体を動かすのは特に嫌じゃないんです。
年齢的に少しずつでも、体を動かさないと。ストレッチをさぼると、歩く時でも足が引っかかったり、動きもスムーズにいかなくなってしまう。階段を降りる時だって、用心深く降りるしね。昔だったら口笛吹きながら正面を向いて、階段を降りていたのが今は一段、一段です(笑)。それが人間、老いるってことは生物の定めですから。でも、そんなことをブツブツ言ったってしょうがない。せめて毎日、1日1日をつつがなく、感謝して過ごしたいと思っています。
素晴らしい共演者たちが集結。楽屋では昔話や趣味の話で盛り上がることも
――作品では、青春時代はラグビーを謳歌していたものの、妻に先立たれ、寂しさと物足りなさを感じていた主人公の桃次郎が仲間を再結成、ゲートボールで青春を取り戻します。演じた76歳の桃次郎について、どう思いましたか。
この役はそんなに重くなっちゃ駄目ですから、相手につっかかるようなことは言わず、「私はジジィですけど、何か?」という精神でいました。ただ、「キャプテンって言われるタイプの男ってどういうやつなんだろう」というのは考えましたね。世の中は、こんな映画みたいになかなかうまくいきませんから、共感というと難しいけれど、仲間のいる、この世界は羨ましかったです。
――藤さんは桃次郎のようなキャプテン気質ですか。
いやいや、全然、からきしです。どちらかというと、私はサイドライン系です(笑)。共演者のみんなでよく話していましたけど、みんなお話し上手で、私は聞き役でした。森次(晃嗣)さん、(山口)果林さん以外は全員、過去に会ったことがあって、石倉さんは彼が司会をしている飲み屋で対談をする番組(『映画酒』)に出たことがありましてね。年寄りはお喋りが好きですから。昔の撮影の裏話や自分の趣味の話に花が咲きました。楽屋話が面白かったです。
本田(望結)さんはもちろん、初めてお会いしました。今年大学生になられましたが、女優さんでアスリートでもあるんですよね。初めて見た時、実際にゲートボールをしている高校生の方たちと一緒にいたのですが、遠くから見ても、オーラが全然違いました。プロのアスリートとしての骨格がしっかりできていて、素晴らしいなと思いました。
面白がれなきゃ、長続きしない。誰が欠けても駄目な世界で、ねちっこくやりつづけている
――主演として、現場ではどんなことを心がけていらっしゃったんですか。
現場って誰が欠けても駄目なんです。どんな仕事もそうだろうけど、それぞれがそれぞれの役割を担っている、一つの建築物みたいなものですよ。そこはすごく意識します。エキストラの方だって、いなかったら空気が出なくなる。そうやって1人1人の人間の存在があって、一つの作品ができる。「サンキュー」っていう気持ちをいつも感じています。
何年キャリアを積んでも、1年生の感覚はずっと抜けないですね。この業界は、年齢は関係ないんです。年齢なんかに所在を求めたら、もう駄目ですね。少年少女の俳優さんでも優れていれば、すごいなあと思う。男女の格差もない。ディビジョン(分離)って言うのかな。そういうのは一切、ないです。
――大学生の頃から俳優を始めて、これまでずっと続けてこられた理由はありますか。
それほどオファーがあるわけでもありませんし、しょっちゅう仕事をしているわけじゃない。年に何本もやりません。そのあたりのバランスが取れていますから。やっぱり面白がれなきゃ、長続きしませんよ。飽きることが怖いんです。だってこれ以外に、生きる方法がないんですから。もし飽きちゃったら、仕事にならない。人に見てももらえない、オファーがなくなる。自分が飽きないで面白がれているから、ねちっこくやれているのだと思います。
後編では、仕事に邁進し続ける藤竜也さんに、日々をアクティブに過ごす秘訣について伺います。
●藤竜也(ふじたつや)
1941年8月27日、神奈川県生まれ。1976年の映画『愛のコリーダ』で報知映画賞最優秀主演男優賞を受賞、2003年『村の写真集』で上海国際映画祭最優秀主演男優賞を受賞、2015年『龍三と七人の子分たち』で東スポ映画大賞主演男優賞を受賞。ほか、1978年『愛の亡霊』、2002年『アカルイミライ』、2019年『台風家族』など100 本以上の映画に出演。
●藤竜也さん主演映画
『それいけ!ゲートボールさくら組』
(c) 2023「それいけ!ゲートボールさくら組」製作委員会
配給:東京テアトル
公開日:5月12日(金) “笑顔満開”ロードショー
藤竜也
石倉三郎 大門正明 森次晃嗣 小倉一郎
田中美里 本田望結 木村理恵 / 赤木悠真 川俣しのぶ 中村綾 直江喜一
特別出演:毒蝮三太夫 友情出演:三遊亭円楽 / 山口果林
監督・脚本・編集:野田孝則
主題歌:Rei「Smile!with 藤原さくら」(Reiny Records/Universal Music)
音楽:安部潤
特別協賛:ドクターリセラ株式会社
協力: 公益財団法人日本ゲートボール連合 千葉県ゲートボール連盟 学校法人作新学院
企画・制作プロダクション:ファーイースト 配給:東京テアトル
(c) 2023「それいけ!ゲートボールさくら組」製作委員会
公式サイト:https://gateball-movie.jp/
取材・文/高山亜紀 撮影/小倉 雄一郎(小学館)