人生100年時代と言われるようになって久しいですが、もし60歳で退職すると残りの人生は30~40年あることになります。リタイアした後の人生をどのように過ごすか、考えていますか? のんびりしたい、好きなことをしたいとは思っていても、それだけでは時間を持て余すことになるかもしれません。
「定年後は会社のやり方に縛られず、自分軸で働ける絶好の機会です」と断言するのは、キャリアコンサルタントの金澤美冬さん。定年前の準備や定年後のセカンドキャリア支援を通して、多くのシニアのセカンドライフをサポートしています。
今回は金澤美冬さんの『誰でも稼げる小さな仕事』(宝島社)より、受け取り方によって損してしまうこともあるという年金のもらい方をご紹介します。損益分岐年齢を知り、お得に受け取りましょう。
監修/金澤美冬
年金の総額が変わる繰り上げ・繰り下げ
原則として、国民年金・厚生年金は65歳から支給されますが、開始時期を60~75歳の間で選ぶこともできます。64歳までを「繰り上げ受給」、66歳以上を「繰り下げ受給」といい、1か月単位での選択が可能です。繰り上げ受給は、1か月早めるごとに受給率が0.4%減り、60歳から受け取る場合は、65歳時の76%となります。
一方、繰り下げ受給の場合は、1か月遅らせるごとに0.7%ずつ増え、75歳から受け取ると65歳時の184%となります。ちなみに、繰り上げ受給は国民年金・厚生年金がセットで支払われますが、繰り下げ受給の場合はどちらか片方だけを選ぶこともできます。
また、年金の受給がスタートすると、その後、受給率が変わることはありません。そのため、年金で得をするかどうかは、何歳まで生きられるかによって変わりますが、医療の発達が著しい日本では、今後も平均寿命が延びていくと予想できます。
できるだけ繰り下げ受給をして、受給額を増やしたほうがよいでしょう。ただし、特別な理由がある場合は、それらも加味して繰り上げるのか、繰り下げるのかを決めるようにしましょう。また、年金は過去5年分をさかのぼって一括受給できることも覚えておくとよいでしょう。
年金には年末調整はない。忘れずに確定申告を
年金は雑所得となるため、課税対象となります。
しかし、65歳未満で108万円以下、65歳以上で158万円以下の場合は、所得税はかかりません。それ以上の金額になると、5.105%の所得税がかかります。そこに、前年度の所得で計算された住民税なども加わります。
会社員として働いていれば、年末調整で税金の過不足を確認してもらえると考えがちですが、年金は年末調整の対象外です。正しく納税して損をしないためには、各自で確定申告を行う必要があります。
ただし、すでに退職していて、収入が年金のみの場合は「確定申告不要制度」を利用することも可能です。これは、公的年金等の収入総額が400万円以下、もしくは、公的年金等にかかる雑所得以外の所得が20万円以下の場合に限り、確定申告をしなくてもよいという制度です。
こちらを利用すれば、1年分の出費を計算して申告するといった手間は省けます。
しかし、「医療費控除」や「セルフメディケーション税制」に、近年人気の「ふるさと納税」などの各種控除を使って節税したい場合は、収入金額が400万円以下だったとしても、必ず確定申告をしましょう。
繰り上げ・繰り下げ受給のデメリット
繰り下げのデメリット
長生きしないと損になる
年金の損益分岐点は12年後といわれているため、75歳まで繰り下げるなら86歳以上まで生きないと損になります。
税金や社会保険料が増える
単純に支払われる年金額が増えるため、税金や社会保険料も増えます。
繰り下げ対象外の年金もある
加給年金・老齢厚生年金などの年金は増額しません。受け取れなくなる点にも注意です。
遺族年金は65歳時点の金額で計算される
繰り下げ中に亡くなった場合は、増額前の金額をもとに計算されます。
繰り上げのデメリット
減額された年金額が一生続く
受給が始まると、同じ受給率が一生続きます。一度申請すると取り消しできません。
国民年金・厚生年金が同時にスタート
繰り上げ受給の場合は、国民年金・厚生年金がセットでの受け取りとなります。
国民年金の任意加入ができなくなる
未納期間があった場合、埋め合わせとしての任意加入ができなくなります。
障害基礎年金が受け取れなくなる
繰り上げ受給を選んだ時点で「65歳に達した」と見なされるため、障害基礎年金は受け取れません。
寡婦年金が受け取れなくなる
寡婦年金の受給中に繰り上げ受給をした場合は、寡婦年金の受け取り資格もなくなります。
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『誰でも稼げる小さな仕事』(金澤美冬 監修)
宝島社
金澤美冬(かなざわ・みふゆ)
2004年、早稲田大学政治経済学部を卒業後、三菱倉庫株式会社に入社。2010年よりキャリアコンサルタントとして活動開始。2018年にプロティアン株式会社(旧EDUCI)を設立。定年前の準備や定年後のセカンドキャリア支援のための「おじさんLCC(ライフキャリアコミュニティ)」および、おじさんによるおじさんのためのセミナーを運営している。時事ドットコムで「令和おじさん進化論」連載中。