文・写真/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)
毎年4月中旬(今年は13~15日)、太陽暦の新年が始まるのに合わせ、タイではこの国の“正月”であるソンクラーンの期間になります。日本の年末年始と同じように、企業や官庁などはすべて長期休暇に入り、人々は故郷へと帰り家族や親戚と新年を祝います。バンコクの悪名高い交通渋滞もこの時期だけは解消されます。
そして、ソンクラーンに欠かせないのが水の掛け合い。タイ全土で住宅街の小道から大通りまであらゆる場所で水鉄砲やバケツを持った人たちが互いに掛け合いをしています。また白い粉を顔に塗られることもあって、これはディンソーポーンという泥灰土を水で溶いた物。
タイに来た当初は物珍しさから、私も水鉄砲を買って参加していましたが、1時間も経つとヘトヘト。水で身体が濡れて急激に体力を奪われるのです。エネルギーに溢れた子供や若者であれば別でしょうが、中高年の身にはこたえます。
以降は、ソンクラーン前に食料を買い込み、引きこもり生活をするようになりました。何しろ祝い事ですから、「水を掛けないでね」とお願いしても無駄。スマホも持ち歩けません。先述のディンソーポーンも服に付くとうまく落ちなかったすることもあります。こういった背景から、ソンクラーン時期、タイ在住者は私のように引きこもるか海外旅行に行くのが定番になっています。
しかし、コロナ禍前、日本から友人が水掛け祭り目当てに来て、久々に参加することになりました。
向かったのはバンコク市内中心部にある大型ショッピングモールのセントラルワールド。市内にある大きな水掛け祭りイベント会場の一つです。モールの前面にあるイベントスペース一杯に人々が集まって水鉄砲の応酬。仮設ステージの上ではライブが行われていたり、バブルマシンから泡が大噴射していたり、正にどんちゃん騒ぎ!
次は外国人バックパッカーが多く集まるカオサンロードへと移動。観光名所として有名な王宮やワットポーから遠くない場所にあり、安宿や旅行会社などが立ち並んでいます。弾け加減が半端ではない欧米人観光客が集まっていますから、どんなノリになっているかご想像がつくと思います。そこに地元の若者たちも加わり、カオス状態は更に輪をかけています。
通りの真ん中は満員電車のように身動きが取れない状態。それでも、通りの両入口から人がまだやって来ようとしています。「押すな! こっちは先に進めないんだ!」と怒鳴る欧米の男性も。
何とか通りを抜け出ると、私は年下の友人に「もう帰ろう」と泣きつきました。友人はまだ未練がありそうでしたが、私の情けない顔を見て了解してくれました。
こういった大騒ぎの水掛け祭りですが、さすがにコロナ禍は自粛。今年はパンデミック明けとあって、以前のような盛り上がりになると予想されます。
もともと、ソンクラーンは仏像や仏塔、年長者の手に水を掛けるという伝統的な風習です。新年を迎えて自分たちが敬う対象をお清めをするのです。今も寺院に行くと、このように儀式を行っています。
しかし、何故、聖なる儀式がどんちゃん騒ぎに変わってしまったのでしょうか?
この時期、タイは1年で最も暑い“暑季”の真っ最中(*)で温度が40度近くになることもあります。そんな中、水を掛けるという現象がエスカレートしていったのでしょう。タイの人は音楽がかかっていると、つい踊ってしまうような陽気な国民ですから。
*この国には暑季・雨季・乾季の3つの季節があります。
水掛け祭りに参加される際には、覚悟を持ってお望みください(笑)。私は静かに寺院でお清めの儀式をすることをお勧めします。
文・写真/梅本昌男
(タイ・バンコク在住ライター)。タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、グルメ、エンタテインメントまで幅広く網羅する。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。