フランス料理の食前酒という印象が強いシャンパン。じつは和食全般に合う食中酒でもある。鮨、天ぷらからおせち料理まで、和食に合うシャンパンで新年を祝いたい。
柑橘系の酸が蟹の匂いを和らげ、甘みが美味しさを膨らませる
福井県出身の中原知美さんが、故郷の食材を味わってもらいたいと9年前に開店した『四季ごはん 晴れ間。』。福井の冬の旬といえば、言わずと知れた越前蟹だが、漁期が限られるせいこ蟹は、12月末までの味覚である。
せいこ蟹はメスのズワイガニのことで鳥取や兵庫などではセコ蟹、石川では香箱蟹と呼ばれる。雌は雄に比べると体が小さく身が少なめだが、その分味わいが濃厚で、卵巣である内子、お腹の外に抱える外子が独特の旨みを醸し出す。店では甲羅盛りや茶わん蒸しなどのコース料理を供している。
「子どもの頃は3時のおやつがせいこ蟹でした(笑)。雌蟹は地元でしか消費されないものでしたが、今はその美味しさが知られるようになりました」と話す中原さん。
店では福井の地酒のほかワインやシャンパンを用意。甲羅盛りに合わせるのは、ピノ・ノワールを45%用いた「ブルーノ・パイヤール」で熟成による上品な旨みと黒ぶどうの果実感が厚みをもたらし、濃厚なせいこ蟹と一体となる。
せいこ蟹
せいこ蟹の土鍋ごはん
2月は瑞々しいズボ蟹が登場
2月下旬からは、脱皮したばかりの若いズワイガニであるズボ蟹を楽しむことができる。柔らかい殻から手間なく蟹脚の身が剥けるので、酢橘(すだち)を絞って豪快にかぶりつきたい。相応しいシャンパンは「ピエール・ジモネ」。辛口のシャルドネが口内を引き締めてくれる。
ズボ蟹
中原さんは蟹とシャンパンの相性を次のように話す。
「蟹は、独特の磯の香りがあります。日本酒と合わせるのが王道ですが、シャンパンが持つ柑橘系の酸が蟹の匂いを和らげ、果実由来の甘みが蟹の甘みと重なり、美味しさを膨らませます。1本のワインをすべての料理に合わせるのは難しいですが、シャンパンであれば和食全般に合います」
シャンパンはまさに食中酒だ。
四季ごはん 晴れ間。
東京都渋谷区上原1-1-20 電話:03・6804・9980
営業時間:18時~23時(最終注文22時)、日曜17時~22時(最終注文21時)
定休日:月曜 コース5700円~、要予約。福井県勝山市のコシヒカリを使った旬の土鍋ご飯が人気。
取材・文/関屋淳子 撮影/多賀谷敏雄
※この記事は『サライ』2023年1月号より転載しました。