少し前に比べて、寒さが増したと感じる瞬間はどのような時でしょうか? 朝、布団から出るのがつらい時、手がかじかんで箸も持てない時、外の寒気が頰に当たり痛みすら感じる時……ふとした瞬間に晩冬の寒さを意識するのではないでしょうか。しかし、長かった冬も終わりにさしかかってきました。やがて訪れる春への期待も、膨らみ始めます。

古代から農業中心の生活をしてきた日本にとって、こうした季節の変化はとても重要なものでした。一年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つに分けて区別したものが「二十四節気」です。旧暦の二十四節気を軸にすることで、普段見過ごしてしまうような季節への気づきを得ることができるのではないでしょうか。

さて今回は、旧暦の第24番目の節気「大寒」(だいかん)について下鴨神社京都学問所研究員である新木直安さんに紐解いていただきました。

大寒とは?|冬を締めくくる「寒の極み」

2026年の「大寒」は、【1月20日(火)】にあたります。一つ前の二十四節気「小寒」と合わせて「大寒」が終わる「寒明け(節分)」までの約30日間を「寒の内(うち)」と言います。「寒の内」は、一年の中でもっとも寒さの厳しい季節です。北国や日本海側では、雪が積もりスキーなどのウィンタースポーツが盛んに行なわれます。

そんな大寒の寒さが絡んだ、「大寒にして後 裘(きゅう)を求む」ということわざをご存じでしょうか? これは「寒さが厳しくなってから毛皮のころもを探し求める」ことを意味します。転じて「事が起こってしまってから、にわかに騒ぎたてること」のたとえです。ちなみに「裘」は、毛皮で作った衣服を指します。

寒さの極限にあっても、自然はやがて来る春への予感も忍ばせています。晩冬の気候を「三寒四温」(さんかんしおん)と表現するように、寒い日の中でも暖かい日が現れるのです。これが繰り返され、季節は徐々に春に近づいていきます。冬の最期の節気である大寒は、春の始まりを連れてくる節気でもあるのです。

七十二候で感じる大寒の息吹

大寒の期間は、例年【1月20日ごろ〜2月2日ごろ】。七十二候ではこの時期をさらに三つに分け、自然の細やかな変化を映し出しています。

初候(1月20日〜24日頃)|欵冬華(ふきのはなさく)

地中から蕗の花が咲き、春の気配がほんのりと漂い始めます。凍てつく寒さのなかに現れるこの花は、寒の底にも確かに春が近づいていることを教えてくれる存在です。

次候(1月25日〜29日頃)|水沢腹堅(さわみずこおりつめる)

沢の水すら凍りつくほどの厳しい寒さ。水の流れが止まるほどの冷え込みは、まさに大寒ならではの風景。自然界の動きが静まり返り、凛とした空気が張りつめます。

末候(1月30日〜2月2日頃)|雞始乳(にわとりはじめてとやにつく)

鶏が春の気配を察して卵を産み始めるころ。かつて、鶏の産卵期は春から夏にかけてでした。

大寒を感じる和歌|言葉に映る大寒の情景

皆さま、こんにちは。絵本作家のまつしたゆうりです。寒さ厳しいこの頃、手作りの味噌を仕込まれる人も多いかと思います。そんな季節にぴったりな、奈良時代の調味料が登場するこの歌をご紹介します。

醤酢(ひしほす)に 蒜(ひる)搗(つ)きかてて 鯛(たい)願ふ 我れにな見えそ 水葱(なぎ)の羹(あつもの) 
長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)『万葉集』3829

《訳》醤油に野蒜(ノビル)をつきまぜて、鯛を願っている私にどうか見せないで! ネギの熱い吸い物なんかを。

《詠み人》長忌寸意吉麻呂は滑稽な歌を詠むのが好きだったようで、言葉遊びや洒落のきいた面白歌を何首も残しています。

絵/まつしたゆうり

奈良時代の調味料と、料理のレシピが伺える貴重な資料歌でもあるこの一首。羹(あつもの)とは当時のスープのことで、これがあまり美味しくなかったのか、それとも食べ飽きていたのかは分かりませんが、とにかく「見るのも嫌だ!」と訴えています。

宴席で詠まれた歌のようなので、きっと料理として提供されたのでしょう。野蒜は香りの高い薬味だそうで、この歌を詠んだ吉麻呂(おきまろ)さんは、醤油と混ぜたソースで鯛のお刺身を食べたかったよう。なのに野蒜ではなく水葱(みずなぎ)のスープが出てきたら、ガッカリしますよね。

「水葱」は主に水葵(ミズアオイ)や小水葱(コナギ)などの水辺の植物のことで、若芽や葉を食べていたそう。きっと田んぼの周りにたくさん生えていた、身近な食材だったのでしょう。

当時の食事は一日二回。階級によって食事事情がだいぶ違ったようで、庶民は玄米ご飯と水葱などの汁の一汁一菜。下級官吏は魚の煮付けや酢の物、野菜の味噌汁などの七品目。貴族は焼きアワビや鴨の汁、蓮の実入りご飯などの十五品目、だそう。

今とあまり変わらない内容だな、と思うかもしれませんが、実は生魚だけはちょっと特別。なぜなら生魚は、海から遠い奈良の土地では入手困難で、魚といえば「干物」や「なれ鮨」が一般的だったから。

そんな中、吉麻呂さんは「刺身」つまり「生魚が食べたい!」と言っているのです。これは、庶民でも食べれるようなその辺に生えてる水葱の汁なんかじゃなくて、上級貴族しか食べられないような高級食材を求める、めちゃめちゃハードルの高い願いの歌なのです。

皆さまもありますよね? 現実には無理そうでも「◯◯したいなー」と思わず願望を言っちゃう瞬間。あの感じなんじゃないかなと思うのです。歴史の教科書で「知識として知っている」ことでも、当時の人の生の声をこうして歌で知ると、また違った感覚がするなど。

今はいろんな情報を手軽に手に入られるようになって、つい何でも「知っている」ような感覚になってしまいます。けれど本当に「識っている」かどうかはまた別のように思います。それは「解像度の高さ」であり、「解像度の高さ」というのは「どれだけ体感を伴っているか」なんじゃないかと思うのです。

自分の体験したことと繋げたり、体感できる解像度まで落とし込んで認識する。この作業を、ついさぼっていませんか? それが小さなすれ違いになり、やがては大きな溝になるように思うのです。

自分で体感したことなら、記憶に残るし親しみも湧く。

「他人事」の情報でなく、もう一歩踏み込んだ「私事」の情報をたくさん積み上げて、立体的な世界を見てみたら。きっと世界はもっと深く大きく複雑で、面白く見えてくるはず!

頭でのみ捉えがちな世界を、ぜひあなたの「体感」で捉えなおす遊びをしてみませんか。

「大寒を感じる和歌」文/まつしたゆうり

大寒に行われる行事|春を迎える祓い

「大寒」は節目を清める行事や、寒さを生かした暮らしの知恵が、各地で大切に受け継がれてきました。大寒ならではの過ごし方を知ると、寒さの意味が少し変わって見えてきます。

節分(2月3日)

「大寒」の行事といえば、「節分」です。立春の前日のことで、現行暦では2月3日もしくは4日にあたります。2026年は2月3日(火)です。

この日の夜に、煎った大豆を「福は内、鬼は外」と唱えながらまくのは、厄払いのため。他にも、柊(ひいらぎ)の枝に鰯(いわし)の頭をさしたものを戸口に挟んで、邪気を払う習慣もあります。

下鴨神社では節分の日に「節分祭」が開催されます。朝より本殿前で節分祭、古神符焼納神事(こしんぷしょうのうしんじ)が行なわれます。その後行なわれる追儺弓神事(ついなゆみしんじ)は、直垂(ひたたれ)姿の射手が舞殿から矢を放つ古式ゆかしい神事です。

午後から追儺豆(ついなまめ)まきが執り行われ、福を求めて人々が集います。その後、崇敬者の願意が込められた「御真木」をお焚き上げする「御真木神事」(ごまぎしんじ)も執り行われます。

追儺弓神事
追儺豆まき

寒の内の行い|寒さを味方にする日本の知恵

寒さをただ耐えるのではなく、寒さを利用し、心身を整える文化も育ってきました。

例えば
寒稽古(かんげいこ):寒さに向き合い心身を鍛える稽古
寒中禊(かんちゅうみそぎ):冷水で身を清め、無病息災を願う
寒仕込み(かんじこみ):寒さの中で発酵・熟成させる仕込み(酒・醤油・漬物など)

厳しい寒さは心身ともにこたえるものですが、昔の人はそこに「清め」や「整え」の意味を見いだしてきました。

大寒に見頃を迎える花|厳寒に咲く春待つ花々

草木も凍えるような厳しい季節にあって、健気に花を咲かせる植物たちがあります。つぼみを結ぶ姿、ふんわりと開く花びらには、春の気配がそっと忍んでいるかのようです。凛とした空気の中で咲く冬の花に、静かな生命の強さと美しさを感じてみませんか?

山茱萸(さんしゅゆ)

厳しい寒さの中、ひと足早く春の気配を告げる花木のひとつが山茱萸です。葉に先んじて、枝先に小さな黄色い花を房のように密集させて咲かせます。その姿は、まるで木全体が黄金の粒で飾られているかのよう。

実は赤く熟し、古くから滋養強壮薬としても用いられてきました。江戸時代の中頃に渡来し、今では早春を彩る花木として親しまれています。

山茱萸

三椏(みつまた)

三椏は、ジンチョウゲ科の落葉低木で、紙の原料として古くから重宝されてきた植物です。枝先がすべて三つに分かれる独特の姿が名の由来。樹高は1〜2メートルほどと小ぶりながら、晩秋に葉を落とすとすぐに芽吹き始め、早春には黄金色の小花が球状にまとまり、香り高く咲き誇ります。

西日本の山地では野生化しているものもあり、春の訪れを知らせる風情ある花木として、観賞用としても親しまれています。

三椏

大寒の味覚|旬を味わい、季節を身体に取り込む

一年で最も寒さの厳しい大寒は、食の滋味も深まる時。旬の恵みを食卓に取り入れることで、体を内側から温め、春に向けた準備を整えていきましょう。

野菜|春菊(しゅんぎく)

鍋料理に欠かせない春菊は、まさに寒い時期に旬を迎えます。霜に当たることで甘味が増し、やわらかく香りも際立ちます。名前に「春」とあるのは、春に黄色い花を咲かせるため。

独特の香りとほろ苦さが、冬の食卓に奥行きを与えてくれます。鉄分やカロテンを豊富に含み、体の免疫力を高めるともいわれています。

春菊

魚|寒鰤(かんぶり)

脂がのり、身が引き締まるこの時期の鰤は、一年で最も味わい深くなるといわれます。刺身や照り焼き、鰤大根にすると、まろやかな脂と旨みが染み渡ります。

出世魚としても知られる鰤は、お正月料理にも登場する縁起のいい魚。寒さの中で育った力強さを、食でいただく季節です。

京菓子|雪餅(ゆきもち)

大寒の頃、茶席に並ぶのが「雪餅」と呼ばれる京菓子です。白いそぼろ状のきんとんでこし餡を包んだこの菓子は、凍てついた雪を思わせる繊細な見た目。使われる山の芋がもたらすねっとりとした食感が、寒い日の温かいお茶と絶妙に調和します。寒さのなかにも静かな美しさを宿す、日本の冬らしさを映した菓子といえるでしょう。

「雪餅」
写真提供/宝泉堂

まとめ

一年の中で最も寒さの厳しい季節である「大寒」。風邪や体調不良が起こりやすい季節でもあります。この冬を乗り切るためにも、季節の食材を摂り入れ、体力をつけることが大切です。やがて訪れる春に向けて、元気に過ごしましょう。

●「和歌」部分執筆・絵/まつしたゆうり

絵本作家、イラストレーター。「心が旅する扉を描く」をテーマに柔らかで色彩豊かな作品を作る。共著『よみたい万葉集』(2015年/西日本出版社)、絵本『シマフクロウのかみさまがうたったはなし』(2014年/(公財)アイヌ文化財団)など。WEBサイト:https://www.yuuli.net/ インスタグラム:https://www.instagram.com/yuuli_official/

監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com 
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto
構成/菅原喜子(京都メディアライン)HP:https://kyotomedialine.com Facebook

 

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