おでんの世界は多彩になり、「出汁」の違いだけでも選択肢の幅は広がっている。未知なる味わいの「出汁」を楽しめる厳選した7軒を紹介したい。
あさりの芳しさが隅々までに行き渡る
赤坂おでん あさり(東京・赤坂)
最初に名がありき。店主の諸井麻利子さん(38歳)の名“麻利”が“あさり”と読めることから、飲食店を開くにあたり店名にした。ならば、貝のあさりを店の看板にしようと、あさりを極めるべく、諸井さんの探求が始まった。あさりに限らずおいしいものを求め、全国を食べ歩き研究した。
そして行き着いたのが、あさり出汁のおでんである。あらかじめ仕込んでおけば、料理を出すのに手間がかからないので客とゆっくり話ができる──と考えたのも、おでんを選んだ理由だ。
あさりの出汁に鰹節と昆布出汁をそれぞれ均等に合わせ、日本酒と醤油を少々加えて仕上げる。シンプルだが旨い。あさりの旨みが効いた和風出汁が、おでんダネからじわじわと染み出してくる。
おでんの世界は無限
「タネによって、たまごやはんぺんなど煮込むものと、出汁をかけるだけのものがあります」
そう言いながら、諸井さんが出してくれたのが春菊だ。生の春菊を出汁にさっとくぐらせ、長芋の
刻みをのせる。早い。旨い。春菊の香りをあさり出汁がいっそう引き立てる。これもおでんなのだ。
「お客さんから、おでんは無限だよ、と言われたんです。そう考えると、うちの出汁とマッチするものはけっこうあることに気付きました。ガーリックトーストもそのひとつです」(諸井さん)
ニンニクとバターの効いたガーリックトーストにあさり出汁をかけると、まるでオニオングラタンスープのような別物の料理になる。そんな諸井さんのアイデアに満ちたタネが、おでん鍋の中で呼吸をしている。〆(しめ)はお茶漬け。どこか緑茶の風味が漂う。これは茶処である静岡出身の諸井さんのひと工夫、出汁に緑茶を合わせることで、さっぱりした後味を残す。酒呑みにはありがたい一膳である。
赤坂おでん あさり
東京都港区赤坂3-15-3 忍路ビル2階
電話:03・5561・0717
営業時間:17時〜翌3時(月曜〜金曜)、17時〜23時(土曜)
定休日:日曜、祝日、年末年始
交通:地下鉄赤坂駅より徒歩約3分、地下鉄赤坂見附駅より徒歩約5分 26席。
取材・文/宇野正樹 撮影/泉 健太
※この記事は『サライ』2022年12月号より転載しました。