関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、熟年夫婦、そして我が子や孫を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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今回の依頼者は、東京近郊に住む嘱託社員の正雄さん(61歳)です。「妻(59歳)がランニングから帰ってこないのです」と私たちに連絡をくださいました。
働き者の妻が、家に帰ってこない
正雄さんは「私が現役時代、仕事ばかりしていて、妻の本心が本当にわからないのです」とかなりうろたえていました。まずは家族全体の関係からお話を伺うことにしました。
「娘と息子がおり、それぞれ独立していますが、もう何年も口をきいていません。子供たちの状況は、妻を通じて上がってきますし、彼らも私に用はありませんから」
聞けば、子供たちの直接の連絡先も知らないそうです。また、正雄さんはLINEもやっていません。
「スマホは持っていますが、ほぼ電話しかしていません。そんなに連絡を取ることもないし、その必要もありませんからね。仕事も完璧にやっていれば、まず緊急事態も発生しませんし、あったとしても部下で対処できますから。ただ、仕事はいいのですが、妻のことはどうしょうもない。子供たちにも相談できないし、妻の交友関係を一切知らないのですから」
妻がランニングに出たきり帰ってこないなら、警察に相談したほうがいいと思いますが、そうではないと言います。
「“帰ってこない”というのは語弊があり、ランニングに出ると、2~3日後に帰ることもあれば、その日のうちに帰って来ることもある、ということです。ただ、今回は1週間も帰ってこない。妻のスマホはつながって、連絡をすると“心配しないでいいわよ”と言って切られてしまうんです。生存確認はできるのに、何をしているかわからない」
帰宅した妻に「どこに行っていたんだ?」と聞くと、「ランニングしていたのよ」と言う。正雄さんがさらに質問しようとすると、「あなたが定年退職して、これから孫にもお金がかかるからパートを何個も掛け持ちしているのよ。もう眠いから寝るね」と話をさえぎられてしまう。
「妻は結婚34年間、全てを任せきりにしていたんです。妻は優しくて、働き者であり、信頼できる人物です。いつも“おかえり”と迎えてくれて、私の世話をしてくれたのに、“ランニングだ”と出て行ってしまう」
【他人に語る妻は「理想の妻」……次のページに続きます】