関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、熟年夫婦、そして我が子や孫を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。

「犬も食わない(ほど、ありふれている)」夫婦げんかも、行きすぎると暴力に発展する。コロナ禍の2019年から2020年にかけて、「家庭内暴力」が急増した。内閣府男女共同参画のDV相談件数の推移を見ると、2020年度の相談件数は、18万2188件であり、2019年度の11万9276件の約1.5倍だ。

それを裏付けるように、夫婦間の殺人は多い。子殺しや親殺しはセンセーショナルに報道されることが多く、記憶に残ってしまうが、実は「配偶者殺し」が最も多い。

『犯罪白書』(法務省)をひもとくと、1997年から20年間終始一貫して全親族殺人事件に対する「配偶者殺し」の構成比は最も多いのだ。

今回の依頼者は、「このままでは夫を殺してしまう」と相談に来た瑞希さん(48歳)だ。15歳年上の夫と結婚して3年になる。

***

親指の爪を噛みすぎて血がにじんでいる

瑞希さんの第一印象は「肝っ玉母さん」。大柄でふっくらした体型ですが、しっかりメイクをしており、セミロングヘアの毛先は巻いています。ブームのニットベストを着ており、キャラクターがプリントされたバッグはハイブランドのものです。

爪の先を見ると、親指以外の指はパールピンクのネイルが施されていますが、両手の親指は素の爪です。しかも、爪は噛みグセによりガタガタになっており、うっすらと血がにじんでいる。「これは、相当、ストレスが溜まっているな」と感じました。

お茶をお出しすると、「このままでは夫を殺してしまう」と涙を流し始めました。落ち着くのを待ち、夫婦のなれそめから伺いました。

「私と夫が出会ったのは、コロナの前の2018年です。夫は59歳、私は44歳でした。当時、私は高級住宅街にあるブランドグッズ買取専門のお店に勤務していたのですが、そこに夫が客としてやってきたのです」

夫は、ほとんど使われていない女性ものの靴やバッグ、アクセサリーを大量に持ち込んだ。買取の査定は2日がかりで行われ、200万円以上になったという。

「正規価格で購入すると1000万円以上になるんです。すべて女性用だったので、てっきり奥様が亡くなったのかと思い、そこで“大切な思い出をありがとうございます。心して引き取らせていただきます”と言ったら、“は?”と言われたんです」

一連のブランド品は、当時の夫が同棲していた女性が、購入したものだという。夫は会社経営をしており、比較的お金に余裕がある。女性は大量に買い物をして、好き勝手ふるまった後に、出て行ったのだという。

「思い込みをして、お客様のプライバシーに立ち入ってしまい、申し訳ないと思っていたところ、“ウチには貴女が着るサイズの服がたくさんある。ネットに服は買取価格が安いと書いてあるし、重くて持ってこられないから、来てくれると助かるんだけど”と言われたんです」

【高級ブランドの服の山……次のページに続きます】

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