子どもの言葉が荒くなった、口をきいてくれなくなった、暴力をふるわれたなど、大人への移行期である思春期の子どもの心は不安定で、突然の変化に戸惑う親は多いと言われています。そこで、福岡県北九州市の「土井ホーム」で心に傷を抱えた子どもたちと暮らしながら、社会へと自立させてきた、日本でただひとりの「治療的里親」である土井髙徳さんの著書『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』から、どんな子どもにも効く思春期の子育てのコツを学びましょう。
文/土井髙徳
「困ったときにはいつでも助けるよ」という姿勢が大事
馬や鹿の子どもは生まれて1〜2時間も経てば自ら立ち上がって歩きはじめます。北極のシロクマは生まれて2年経つと親元から離れて自立します。身体的、社会的に自立の早い動物と比較すると、ヒトの子育てはやっかいです。
ヒトの子どもは妊娠中はもとより、生まれてからも親の手を大いにわずらわせます。授乳、オムツの交換など24時間かいがいしく世話をしてもなかなか寝てくれず、ぐずったり夜泣きをして、マタニティーブルー(周産期の母親のうつ)の原因になりかねません。虐待の原因のひとつに、このようなヒトの子どもの「育てにくさ」が挙げられています。
それだけに最近、私の周辺でも育児に積極的に参加する「イクメン」の男性も増え、「妻の代わりにこれから1年間休職します」というあいさつを受けると、37年前から実践していた私はまことに心強く感じます。
パートナーの協力を得て、乳幼児期の困難を乗り越えて小学校に入学し、ホッとしたのもつかの間、思春期に入るとまたまた親は困難に遭遇します。
思春期の子育てはトンネルに似ています。日中、車の運転中にトンネルへ入るとき、光に慣れた目で暗闇に入ると一瞬先が見えなくなってとまどいます。ライトを点灯することで安全に運転できるように、子育ても思春期のトンネルに入ったら、視点を変え、親自身があらためて学ぶことで闇に光が射すのではないでしょうか。
前思春期と思春期、思春期後期との違いをあげるなら、親子の「間」が変わってくることです。手取り足取りの密着した子育てから、少し心理的な間隔をとる子育てへ。つまり、「手」をかける子育てから「目」をかける子育てへ変化する時期です。
お子さんがSOSのシグナルを出さない限り、「注目」はしていても「手出し」をしないことです。
「困ったときにはいつでも助けるよ」と伝えておいたら、あとはいざというときに「間」に合えばいいのです。思春期に入っても、こうした適切な心理的「間」をとれないのは、「間」が悪く、「間」違いなのです。子どもが「親離れ」を始めたこの時期こそ、親自身も「子離れ」を開始しましょう。ご夫婦や友人との共通の趣味や習い事、ボランティア活動などを心から楽しみましょう。親の潑溂とした姿こそ、子どもには何より元気の素です。
【一口メモ】
子ども虐待において、子どもとの「間」を詰め過ぎて境界を超え、子どもの世界に踏み込んで親のパワーを過剰にふるってしまうのが身体的、性的な虐待とするなら、その反対の極にあるのは、「間」をとりすぎて必要な愛情を注がない育児放棄(ネグレクト)です。「間」違った育児方法をとらないようにしたいもの。そのためにも、家庭が地域社会との窓を開けて、爽やかな風が吹き込むように人とのつながりを忘れないことです。
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『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』(土井髙德 著)
小学館
土井髙德(どい・たかのり)
1954年、福岡県北九州市生まれ。里親。「土井ホーム」代表。保護司。学術博士。福岡県青少年育成課講師。北九州市立大学大学院非常勤講師。心に傷を抱えた子どもを養育する「土井ホーム」を運営。医師や臨床心理士など専門家と連携し、国内では唯一の「治療的里親」として処遇困難な子どものケアに取り組んでいる。2008年11月、ソロプチミスト日本財団から社会ボランティア賞を受賞。