子どもの言葉が荒くなった、口をきいてくれなくなった、暴力をふるわれたなど、大人への移行期である思春期の子どもの心は不安定で、突然の変化に戸惑う親は多いと言われています。そこで、福岡県北九州市の「土井ホーム」で心に傷を抱えた子どもたちと暮らしながら、社会へと自立させてきた、日本でただひとりの「治療的里親」である土井髙徳さんの著書『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』から、どんな子どもにも効く思春期の子育てのコツを学びましょう。
文/土井髙徳
子どもの自尊感情を高める目標の立て方
乳幼児期から児童期にいたるまでの子育ては、「手をかける」ことが中心でした。鹿や馬は生まれて数時間で立ち上がりますが、ヒトの場合は子どもの養育に途方もなく手をかける必要があります。お子さんの成長を振り返って、ずいぶん大変だったと感慨深く思い返す方も多いのではないでしょうか。
ところが、小学校高学年ともなると、こうした親との密着した関係にも変化が生じ、「ギャングエイジ」と呼ばれる子ども同士の親密な関係が際立ってきます。この時期以降は以前のように手をかけず、子どもの心の動きや行動を見守ること。親自身が「目をかける」子育てに移行する時期なのです。子どもとの関係性の変化を認識した上で、お子さんとの適切な心理的な「間」をとることが必要となってきます。とはいえ、思春期は見過ごすことのできない問題が多発します。そのような場合にはどうしたらよいでしょうか。
1.親は、現状を分析して、箇条書きにします。
2.箇条書きした現状のうち、変化させたい状況を親子で話し合い、アンダーラインを引きます。
3.「変化させたい状況」の各項目に関して「理想の状況」を書き出します。
4.「理想の状況」を達成する方法を親子で話し合い、可能な限りアイデアを出します。
5.「理想の状況」を達成する方法を選び、子どもがすること、親がサポートすることを役割分担します。
6.子どもに達成感を与えるのが目的なので、達成度は80%でよしとします。
「よくやったね」という親の承認とともに「報酬(ごほうび)」を与えます。ちなみにわが家では図書カードやクオカードをあげています。この「報酬」をお子さんの成長につなげるためには、次のような過程を経てください。
1.親子で話し合って決めること。
2.約束し、その約束をお互いが守ること。
3.ごほうびを与えるときに、心の底からほめること。
目標は子どもが達成できることが大事です。失敗続きでは自信を失います。年齢や成長の度合いによって、最初は楽な目標を、2〜3個程度にしぼって始めるとよいでしょう。もちろん、親の称賛が子どもにとって最高の報酬であることは、言うまでもありません。
【一口メモ】
目標は子どもが達成できないような「高く・遠く・大きな」目標にはしません。「低く・近く・小さな」目標を、言いかえれば達成可能な目標を立てることが肝心です。身近な目標をやりとげた達成感を味わわせることが実は真の目標です。達成感は子ども自身の自尊感情を高め、次の飛躍への足がかりになるからです。
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『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』(土井髙德 著)
小学館
土井髙德(どい・たかのり)
1954年、福岡県北九州市生まれ。里親。「土井ホーム」代表。保護司。学術博士。福岡県青少年育成課講師。北九州市立大学大学院非常勤講師。心に傷を抱えた子どもを養育する「土井ホーム」を運営。医師や臨床心理士など専門家と連携し、国内では唯一の「治療的里親」として処遇困難な子どものケアに取り組んでいる。2008年11月、ソロプチミスト日本財団から社会ボランティア賞を受賞。