霰聞くや この身はもとの 古柏──松尾芭蕉
火災で芭蕉庵を失い、門人らが尽力して建てた新庵に移り住んだ際に詠んだ句だ。
詠む人 草野満代さん(フリーアナウンサー・55歳)
芭蕉稲荷神社(深川芭蕉庵跡) (4)
古池の句が生まれた稲荷社に詣でる
東京都江東区常盤1-3-12
境内自由
交通:都営新宿線・大江戸線森下駅より徒歩約6分、または大江戸線・東京メトロ半蔵門線清澄白河駅より徒歩約10分
蛙(かはづ)の句が詠まれた場所を探して吟行する
芭蕉庵史跡展望庭園の近くに、芭蕉を祀る芭蕉稲荷神社が鎮座する。芭蕉庵はもともと、芭蕉の門人・杉山杉風(すぎやまさんぷう)の別宅だった。魚問屋を営んでいた杉風の屋敷には生簀があったが、廃業後は魚もいなくなり、荒れた古池の様相を呈していたという。ここで詠まれたのが名句〈古池や 蛙飛びこむ 水のおと〉だ。従来の和歌などの作法では、蛙かえるは鳴くものであったが、芭蕉は、水に飛び込むという動きと、その結果生まれる音を表現した。「さび」とともに17音に刻まれた斬新さは、約340年を経た今もなお、鮮烈な印象を残している。
芭蕉が去った後には、大名屋敷が建てられ、庭の池には蛙形の石が置かれていたと伝えられる。大正6年にここで蛙の石像が発見されたことから、芭蕉を偲ぶ地域の人々が芭蕉稲荷神社を建立。蛙の石像は「伝芭蕉遺愛の石の蛙」として現在は芭蕉記念館に常設展示されている。
「鳥居の横に竹箒がありますよ。地域の方々が今も日々お掃除をして、大切に祀っていらっしゃるのが伝わってきますね」
そういって、草野さんがそっと手を合わせる。
梅雨晴れの 箒あたらしき 庵守り──草野満代
清澄・白河で句題を探す
萬年橋 (5)
古地図に描かれた芭蕉庵近くの橋
東京都江東区常盤1~清澄1
交通:芭蕉稲荷神社より徒歩約1分
萬年橋を渡り、清澄・白河にも足を延ばしてみたい。芭蕉が参禅のため通ったという臨川寺や、『おくのほそ道』の旅への出発地点とされる採荼庵(さいとあん)跡など、芭蕉ゆかりの見所は多い。
紀伊国屋文左衛門屋敷跡に明治になって岩崎弥太郎が造営した庭園を前身とする清澄庭園では、風雅な回遊式林泉庭園を愛でて一句というのもいいだろう。門前仲町の富岡八幡宮境内には、芭蕉を祀る「花本社」があり、俳句の上達を願う人が参拝するという。
「吟行でぱっと思いつく方もいらっしゃいますが、私はどちらかというと、辞書片手に句を練る方が多いかもしれません」(草野さん)
かの芭蕉も、外で句を詠むというより、思いを持ち帰って、後に芭蕉庵で多くの句を詠んだと考えられている。深川吟行で感じたことをじっくりと噛みしめる様子の草野さんの姿は、いつの間にか芭蕉の町に溶け込んでいた。
清澄庭園 (6)
全国の名石を配した回遊式林泉庭園を愛でる
東京都江東区清澄3-3-9
電話:03・3641・5892
開園時間:9時~17時(最終入園16時30分)
休業日:12月29日~1月1日
入園料:150円(5月4日みどりの日、10月1日都民の日は無料)
交通:都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線清澄白河駅より徒歩約3分
採荼庵跡 (7)
『おくのほそ道』の始まりの地で芭蕉を見送る
東京都江東区深川1-8付近
見学自由
交通:都営大江戸線門前仲町駅より徒歩約7分 清澄庭園からはすぐ。
花本社(富岡八幡宮) (8)
芭蕉を祀る社で作句の上達を祈願
東京都江東区富岡1-20-3(富岡八幡宮境内)
境内自由
交通:東京メトロ東西線門前仲町駅より徒歩約3分、都営地下鉄大江戸線門前仲町駅より徒歩約6分
立ち寄り処
PITMANS(ピットマンズ)
絶景と地ビールで吟行の仕上げを
東京都江東区清澄1-1-7(LYURO東京清澄2階)
電話:050・3188・8919(予約用)
営業時間:7時~22時
定休日:不定 50席。
交通:東京メトロ半蔵門線水天宮前駅、同半蔵門線・都営大江戸線清澄白河駅より徒歩約10分
取材・文/平松温子 撮影/安田仁志 ヘアメイク/土橋大輔 地図製作/もりそん
※この記事は『サライ』本誌2022年8月号より転載しました。