取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
純子さん(仮名・62歳)はスナックを経営する女友達・夏美さん(58歳)との関係に悩んでいるという。純子さんは、半年ほど前に35年間の結婚生活にピリオドを打つ。長女(33歳)、長男(30歳)と孫(3歳)がいるが、孤独を抱え、夏美さんが経営するスナックに入り浸るようになる。
【これまでの経緯は前編で】
お酒を飲んでいると会話が弾む
純子さんは離婚に際して、元夫から2千万円近くのお金を受け取っていた。ローンが完済している持ち家(都内一戸建て)もあり、70歳で年金の受給を始めるまで、それなりの生活ができる。
「それまで、専業主婦で、節約をして切りつめた生活をしていたんです。お酒も飲まなかったし、子供の学費の支払いがのしかかる50代までは、自分で髪も染めていました。全てが終わっても、老後生活に不安があるので、それなりに財布の紐を締めていた。でも離婚で金銭感覚がおかしくなったというか、“うるさい主人もいないし、好きにやっちゃえ~”って解放されたんです」
スナックに行き、お酒を飲んでいれば饒舌になる。常連の男性(40~70代)から、「若いね」「かわいいね」と褒められると、おしゃれにも気合が入る。常連との社交のためにゴルフやマージャンも習い始めた。
「最初はビール1本程度で、2000円くらいだったのですが、ボトルを入れるようになり、1回行くと4000円ほど取られるように。毎月4~5万円を夏美さんのお店に落としています。夏美さんは“純子と私は親友よ”と言ってくれるから、常連の人からも一目置いてもらえる。夏美さんと常連さんたちが食事に行くときに一緒に連れて行ってもらったり、ゴルフを教えてもらったりしており、それは全額、常連さんたちの奢りです。損した気持ちにはなりませんでした」
通い始めて3か月くらいした頃、夏美さんから「相談があるの」と話を持ち掛けられた。それは、夏美さんのお店がコロナの影響で経営難であること。助成金が思ったように入らず、店の維持ができないので、50万円ほど貸してくれないか、と相談されたのだった。
「びっくりしましたけれど、50万円は貸せないお金ではない。助成金が入ったら返済してくれるとのことだったんです。夏美さんは見よう見まねで借用書も作ってくれたのですが、私は“水臭いからいいわよ”と言ってしまったんです」
貯金残高が2000万円近くある純子さんは、50万円を小さなお金のように見えてしまった。楽園の女王である夏美さんを助けるためなら、安いものだと思ったのだろう。
「一度お金を貸すと、ちょこちょこ貸してほしいと頼まれて、この3か月間で100万円にもなってしまったんです。そんなある時、息子から家を建てたいから頭金を出してほしいと連絡が」
息子は、父親である元夫に連絡をしたが、元夫は「貯金は全てママに渡したので俺にはない」と言った。そこで息子は純子さんのところに来たのだ。
「お嫁ちゃんの実家が500万円を出すので、ウチは1000万円を出してほしいって。そんなに出せないので550万円を渡したんです」
【不安になるほど、残高が目減りしていた……次のページに続きます】