取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
純子さん(仮名・62歳)はスナックを経営する女友達・夏美さん(58歳)との関係に悩んでいるという。
息子の結婚式の後、夫から離婚を切り出された
純子さんは、27歳で結婚以来、35年間専業主婦をしていた。
「家庭に入ることが“うらやましい”と言われている時代で、今みたいに子供を育てながら働くという選択肢がなかったんです。3歳年上の主人も絵にかいたような亭主関白で、家事も子育てもノータッチでしたしね。プロポーズは主人の方からで、“一生、幸せにします”って、ダイヤモンドのリングをくれたのに、結婚3年目にして夫婦仲は冷え切っていました」
それでも離婚をしなかったのは、夫が一流企業に勤務しているから。
「一姫二太郎を授かり、生活が安定している方がいいじゃないですか。離婚しようと思ったことは何度もあり、泣きながら実家に帰ったこともありました。でも。実際に1人で働いて2人の子供を育てるなんて想像するだけで恐ろしい。子供を産んであげたんだから、主人には責任を全うしてほしかったんですよ」
純子さんは、62歳の実年齢にも関わらず、少女のような面影がある。セミロングのボブは黒く染められており、ピンクの花柄のワンピースが似合う。“若作り”とまでは言わないが、実年齢よりも若く見せようと努力していることがわかる。2人の子供はすでに結婚しており、33歳の娘のところには、3歳の孫娘もいるという。
「娘はホントに勝手でね。反抗期の時に、私のご飯がどれだけマズいかをレポート形式で書いてきて、さらに“クソババア、死ね”などと言ったんですよ。でも、3年前に子供が生まれてから、態度がコロッと変わって、“ママ、ご飯作って、子供の面倒を見て”って連絡してくるんです。そういうときは、思春期に娘が書いたレポートを見せてやり、“まずいけれどいいかしら”って言ってやりますけれどね。嫌な顔をするけれど、自業自得です」
安定はあるが、愛情がない結婚生活が終わったのは、今年、30歳の息子が結婚したことがきっかけだった。披露宴の後に、夫から「これで親の役目は終わった。離婚しないか」と切り出されたのだ。
「一緒にずっと生活していて、それはないんじゃないかと思いましたが、家も貯金も全部私にくれると。主人に別の女性がいるなら、あきらめもつくのですが、そうではないと言います。目の前が真っ暗になりましたが、離婚に応じたのです」
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