「なにもかも持っているんだから助けなさいよ」
貯金が一気に目減りしたように感じ、純子さんは夏美さんに「そろそろお金を返してくれない?」と連絡をした。最初はのらりくらりと交わされていたが、純子さんが正直な気持ちである「息子の頭金が思うように払えなくなったのは、夏美さんにお金を貸したからよ」と言ったら、烈火のごとく怒り始めた。
「鬼の形相で、“あなたはなにもかも持っているんだから、助けなさいよ”とこうですよ。泣かれて、“今まで楽してきたんだから、私のことを助けたっていいでしょう? 私のことを見殺しにするの?”などと言われると、私は親友に対して、なんてことを言ってしまったんだろうと申し訳ない気持ちになり、“ごめんなさい”と泣いてしまいました。すると夏美さんは“絶対に許さない”と言っていたのに、私の気持ちが伝わると“いいのよわかれば”と許してくれたんです」
このとき、2人はお酒が入っていたという。そこで、せめてものお詫びとして、夏美さんのお店に1万円のボトルを入れた。
「夏美さんはニッコリ笑って、“仲直りね”と乾杯をしてくれたんです。でもお店を出て、残高を見ると、やはりあの100万円は返してほしい」
友情をとるか、お金を取るかで悩み抜き、お店から脚が遠のくと、家を知っている夏美さんは「お見舞いに来たよ」と、煮物やサプリメントを持って来てくれる。
「サプリメントもとても高いもので、それをわざわざ私に持って来てくれるんです。本当に優しい人なんだなと思っています」
そんなある時、久しぶりに常連の男性と会ったという。彼は40代後半で、地元で水道工事関連の会社を経営しており、純子さんに対して「若いね、可愛いね。俺、純子さんだったらイケる」と何度もデートに誘ってきた人物だ。
「“最近、お店に来ないね”と話しかけたら、“夏美ママは、変な投資に手を出してヤバいらしいんだよ。そんな人のそばにいたくないからさ”と言ったんです。あんなに親しそうにしていたのに、人間関係ってこんなにドライなんだってショックでした」
その後、純子さんは孤独になる恐怖と天秤にかけながら、夏美さんと付き合っているという。「お金を貸してと頼まれる代わりに、サプリメントを買えと言われているんです。もうどうすればいいやら」
孤独になりやすく、社会人経験が少ない専業主婦を狙った詐欺スレスレの事象は増えている。被害者である本人は「友達のためにやったので、後悔はない」と思っているから表に出ないが、安定しているはずだった老後生活の足元がボロボロになっていることに、気づいた時には遅いのだ。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。