文/鈴木拓也
シニア世代の健康上の悩みでよく聞くのが「ひざの痛み」。その多くは、変形性膝関節症によって引き起こされている。日本では60歳以上の男性の約5割、女性だと約7割がこの病気にかかっているという(自覚症状のない人も含む)。
「歳だからしかたがない」とか「いつか治る」など理由をつけて放置しておくと、痛みが恒常化して不眠や抑うつ症状になったり、サルコペニアや骨粗しょう症との合併で寝たきりになったり、実は大きな健康リスクがある。また、「変形性膝関節症だろう」と自己判断するのも危険だ。痛みの裏にほかの深刻な病気が潜んでいる可能性もある。たかがひざの痛みと見過ごさずに、速やかに整形外科医に診てもらうことが重要だ。
ひざの痛みへの対処法は、投薬、関節内注射、手術などがある。病院で適切な診断を受けた上で「セルフケアで痛みを改善し、治す」方法を教えているのが、高知大学医学部附属病院整形外科の池内昌彦教授だ。
池内教授の監修による書籍『シニアのひざの痛み―ずっと歩ける!自分で治す!』(NHK出版)には、ひざの痛みの基礎知識に加えて、セルフケア(ストレッチ、筋力トレーニング、有酸素運動)が図入りで掲載されている。いずれも、無理なく安全にできるものばかり。例えば、どのようなセルフケアがあるのか、2つ紹介してみよう。
ストレッチ―太もも伸ばし
ストレッチは3種類が紹介されており、それぞれ難易度が2段階に分かれる(計6種類)。以下に紹介する「太もも伸ばし」ストレッチは、床にマットか布団を敷いて行う難易度が高いバージョンで、これがきついと感じられる場合は、椅子を使って行う難易度が低い手法も紹介されている。
体の右側を下にして横になり、左手で左の足首をつかむ。かかとをできるだけお尻に近づけ、30秒間保って手を離す。枕を使うと首や肩が楽になる。反対向きになり、右脚も同様に行う。「痛気持ちいい」を目安に片方につき30秒間、1~2回行う。
筋力トレーニング―脚上げ運動
筋力トレーニングは5種類紹介されており、どれもダンベルなどを使わない自重によって鍛えるトレーニングだ。以下の脚上げ運動は、股関節を支える筋力が増して、ひざへの負担が減るという効果がある。
マットか布団を敷いた床にあおむけになる。片方のひざを曲げて立てひざに、もう片方のひざはまっすぐに伸ばす。頭の下に枕を置くと腰が楽になる。
ひざを、伸ばしているほうの脚のかかとを床から10cmほど上げて、5秒間止める。ゆっくり床に下ろし、2~3秒間休む。これを20回繰り返す。反対側も同様に行う。
こうしたストレッチと筋力トレーニングに継続して取り組むことで、個人差はあるが1~2週間後には痛みが軽くなり、2~4週間後には動きがスムーズになり、3か月ほどで痛みが起こりにくくなるという。
これらとは別に「ひざにやさしい有酸素運動」として、「ひざ痛解消ウォーキング」など4種類の有酸素運動が収載されている。池内教授は、ストレッチ、筋力トレーニング、有酸素運動を組み合わせることで、より効果は高まるとしている。
医療界でも「薬による治療よりも運動療法のほうが重視されている」とのことで、ひざのトラブルがあるなら、整形外科医と相談の上、こうした運動に励んでみるとよいだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『シニアのひざの痛み―ずっと歩ける!自分で治す!』
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000067941802018.html
(池内昌彦監修、NHK出版)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。