取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
美津さん(仮名・62歳)は、30年来のママ友・好子さん(仮名・59歳)が夫(67歳)の社交ダンスのペアになったことで、悲しみと虚しさを覚えることが増えた。スポーツマンの夫は、社交ダンスの競技会出場を目標にし始める。ダンスにはペアが必要だ。その相手が見つからず、困っていた夫に、独身時代にダンス経験がある好子さんを紹介したことが、すべての始まりだった。
【これまでの経緯は前編で】
夫は好子さんの存在を知っていたが、興味はなかった
好子さんは社交ダンスを本格的にやっていたという。
「上達度にランクがあり、夫には及びもつかないほどレベルが高かったそうです。でも結婚や育児、20年前の離婚、その後の仕事に追われて30年以上のブランクがあったとか。最初は大変だったみたいですが、1か月もするうちに勘を取り戻したそう。すると夫もいきいきと練習しだすようになったんです」
好子さんも会うたびにキレイになっていった。美津さんの夫とダンスのペア関係になってから、仕事にもハリが出たのか、自主練を重ねているのか、みるみるとスリムな体型になり、所作も美しくなった。
「私が見ても、ハッとするくらいの色気があるんです。ペタンコの靴ばっかり履いていたのに、ヒールを履くようになりましたし……」
夫に好子さんのことを聞くと、「美津の友達に、あんな人がいたんだね」と感心しているという。
「好子さんがDV夫と離婚するときにかくまっており、面識はあったはずなのに興味がないから覚えていなかった。でも今は違います。“あの人はITのナニナニっていう仕事をしていて、ビジネスがナントカで……”と熱っぽく話すんです。さらにダンスも夫のレベルよりはるかに上らしく、夫は近づくためにますます頑張っている。もともと夫は容姿がいいんですが、ますます若返って、私の方がおばあちゃんに見えるようになったんです」
それを言うと「美津もダンスを一緒にやろうよ」という話になる。
「私は仕事の話もできないし、ダンスもできない。ゴルフもスキーも嫌いで、できることは家事くらい。夫が好子さんの話をするたびに、“この人は私みたいなつまらない女と結婚しちゃってかわいそうだな”って気持ちになる。すると、不安になるんです」
今さら離婚はないかもしれないが、夫の心がママ友に……それも、少々見下していたシングルマザーの好子さんに移っていくのは悲しい。
「ある日、好子さんから“ご主人を食事に誘ったら、美津さんと3人でなら……ってことでOKをくれたの。私たちの練習も見てよ”と言われたので、教室に行ったんです。すると、2人は生半可な恋愛気分を乗り越えたところで本気でレッスンをしていた。2人の一体感、好子さんの動きに合わせられずに頑張る夫の姿を見て、“この人達は、2人で一緒にダンスを作り上げているんだ”と感動すると同時にさみしくなってしまったんです」
【目標がないまま、夫婦でいてもしょうがないんじゃないか……次のページに続きます】