文/印南敦史

『50代から実る人、枯れる人』(松尾一也 著、ディスカヴァー携書)の著者は、50代のことを「人生最大の分水嶺ともいえ、舵取りが難しい年代」だと表現している。

たしかに50代は、仕事、子どもの教育、あるいは親の介護や看病、見送りなどの大きなライフイベントが迫ってくる時期だ。だからこそ、なにがあっても「再起できるだけの力」が求められるのかもしれない。

26歳で教育事業を起業し、約34年間にわたって「人間育成」に取り組んできたという人物。いわば人材育成のエキスパートとして、多くの人と出会ってきたわけである。

注目すべきは、そんな人生を送ってきたからこそ、「50代で実る人・枯れる人」という顕著な違いを感じているという点だ。そして、そこが本書の軸になっている。

本書では“実る人”の特徴として、
「エリート、金持ち、有名」ではなく、「いい人間関係、元気、心の平安」
の3つのポイントの実現を挙げています。
枯れかけていた人が、この3つのギフトを手に入れることで、見事に実るケースをたくさん見てきました。
50代は人生のマネジメント次第で、今まで育てた果実を手にできる一番愉快な黄金期です。(本書「はじめに――50代にとって、社会は受難のシステムである」より)

重要なのは、人生の思考、感情、言葉、行動を自分で整えていくこと。そこで本書には、そのために意識しておきたい考え方がまとめられているわけである。

たとえば冒頭では、「自分がいま、どのステージにいるのか」を見つめなおすことの重要性が説かれている。“枯れる人”は自分の人生に関心を持たないものだが、本来はその年齢にしか見えない風景がある。したがって、自身の立ち位置を確認しておく必要があるということだ。

5歳の頃に、繁華街の明かりを見てもなんの魅力も感じません。
いつも母親の背中を追いかけていました。
20歳の頃には遊びが最大の関心事でレジャー施設に目が奪われます。
30歳の頃には、自分の人生の伴侶(パートナー)候補の異性に目がいっています。
40歳の頃には同世代の仕事ぶりや暮らしぶりが大いに気になります。
そして50歳。社会の風景とのピントが合いだして、やっと様々な実相が見えてくるのです。(本書20ページより)

そんな50歳には、「なんと人生とはこのような仕組みだったのか……」ということがクッキリ見えてきて愕然とするものだと著者はいう。この感じ方には、少なからず共感できる人も少なくないのではないか。

たしかにこの時期には、それまで見えていなかったものが見えるようになり、わからなかったことがなんとなくわかってきたりするものだからだ。

しかしそれは、「悟る」ということではないようだ。そうではなく、「生活」に追われる日々のなかで「人生」というものにようやく気づくという感覚だというのである。

一方、50歳を越えると、“習慣のギア”が変わり始めることを否応なく思い知らされることにもなる。ここには、その例が挙げられているので引用してみよう。きっと、「そのとおりだな」と感じることがいくつもあるはずだ。あまりうれしくないことも含まれているが、つまりはそれが50歳の現実なのだろう。

「そんなに食べたつもりはないのに太りだす」
「お酒をたくさんは飲めなくなる」
「白髪が増えてくる、髪が薄くなる」
「通勤がしんどくなる」
「徹夜が出来なくなる」
「親の介護や見送る日を経験する」
(本書21ページより)

また、手放すものも増えてくる一方、手に入るものもあるに違いない。仕事の経験や醍醐味、心のやすらぎ、家族や友人のありがたみ、食べ物や景色の深い味わいなどなど。あるいは、生きる意味を実感することもあるはずだ。

そうしたなかで「自分」という生き物が実っているのか、それとも枯れつつあるのか、はっきりしてしまう年齢が50歳なのです。(本書22ページより)

だからこそ、「自分がいま、どのステージにいるのか」について冷静に見つめなおすことが大切だということなのである。

なお、ここでは「50歳」と限定された表記が用いられているが、もちろんこれは「51歳」にも「59歳」にもあてはまることでもある。50代自体が、60代という次のレベルに上がる前の重要な時期であるからだ。

そして50歳からの10年は、著者もいうように自分のことを見つめやすい時期でもある。この時期に自分をどう捉え、なにをすべきか考え、行動に移すことが、よりよい60代を過ごせるか否かにかかっているに違いないのだ。

そういう意味でも、自分とその人生を見つめなおすための参考書として、本書を活用してみる価値はありそうだ。

『50代から実る人、枯れる人』
松尾一也 著
ディスカヴァー携書

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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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