相続税の申告や納税で不利な状況にならないために、相続が発生する前に税額のシミュレーションや、将来の相続に対する準備を行うことで、相続税の負担を軽くすることができます。生前からしっかりと準備を行うことで、様々な特例を想定することができるでしょう。しかし相続が発生した後でも、有効な対策がいくつかあります。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人の税理士 中川義敬が、長年にわたる相続税申告のサポートを通じて得た幅広い知識や経験に基づき、相続発生後からでも効果的な相続税の対策ついてご説明したいと思います。
目次
相続前にできる相続税対策は?
相続発生後にできる相続税対策とは
特例を利用して相続税を軽減
マイナス財産を見直す
まとめ
相続前にできる相続税対策は?
相続税の対策は、相続発生後よりも発生前に行った方が、効果が高いものが多いもの。ここではその一部をご紹介します。
生前贈与
・暦年贈与
暦年贈与は、贈与財産の課税価格から110万円の基礎控除額を差し引いた金額が、贈与税の課税対象となります。つまり、1月1日から12月31日までの間に贈与を受けた金額が110万円以下であれば、贈与税を受贈者に負担させることなく、生前贈与を行うことができます。
例えば、10年間毎年110万円ずつ贈与をした場合、合計1,100万円を無税で生前贈与することが可能です。暦年贈与を行ううえで注意することは、原則、贈与が双方の承諾の上で成立する「契約」であることを認識する必要があるでしょう。
・相続時精算課税
相続時精算課税制度とは、親から子、祖父母から孫などに行われる贈与について、累計で2,500万円までは贈与税がかからず、相続時にその贈与を精算するという課税方法です。生前に贈与を行ったときは、2,500万円まで何も課税されません。しかし、その代わりに贈与者である被相続人が死亡したとき、贈与を受けた金額分を、被相続人の他の相続財産と合算して相続税の計算を行う必要があります。
相続時精算課税制度によって贈与された財産は、必ず相続税の対象になるため、残念ながら相続税を節税する対策にはなりません。しかし、想定される相続まで期間があり、受贈者が今すぐ現金などを必要としている場合や、株式など将来値上がりが期待できる資産の贈与であれば、効果が期待できます。
不動産購入
・貸家建付地の評価
被相続人の土地に賃貸アパートや店舗向け物件を建築し、個人や法人に貸し付けている場合は「貸家建付地」として評価することができます。
貸家建付地の評価方法は下記の通りですが、現金で評価することに比べて、おおよそ2~3割程度評価額が減額されます。そのことから納税資金を確保しつつ、現金の一部を不動産購入に充てることは、効果の高い対策といえるでしょう。
【貸家建付地評価の計算方法】
貸家建付地の価額 =(1)-(1)×(2)×(3)×(4)
(1)自用地としての評価額
(2)借地権割合
(3)借家権割合
(4)賃貸割合
保険加入
相続財産となる生命保険金のうち、受取人が「相続人」であるものは、「500万円 × 法定相続人の数」まで相続税が非課税になります。現金を保険に組み替えることで、非課税枠の活用ができますので、節税効果が高い対策です。
相続発生後にできる相続税対策とは
相続対策は、生前に実行すると効果が高いのですが、相続が発生した後に活用できるものもあります。ここでは、相続税の計算を行う場合の特例計算と、債務の見直しについてお話しいたします。
特例を利用して相続税を軽減
相続税の計算において、税額を軽減できる様々な特例が用意されています。これらの特例を利用することで、税金を安く抑えることが可能であり、ここでは代表的なものについてお話しいたします。これらはいずれも、相続税の申告書に一定の書類を添付することで、適用を受けることが可能になるものです。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、相続税の土地評価額を減額させる特例措置で、最大80%まで評価額を減額させることが可能です。減額割合は土地の利用状況、使用面積や一定の適用要件によって変動しますが、ご自宅や賃貸アパートを購入することで、大幅に相続評価額を引き下げることができます。
【減額割合】
・自宅用の土地(特定居住用宅地等)… 80%
・貸付用の土地(貸付事業用の宅地等)… 50%
・貸付以外の事業用の土地(特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等)… 80%
配偶者の税額軽減
配偶者の取得した財産が、法定相続分か1億6,000万円のいずれか大きい金額に達するまで、配偶者の相続税が非課税となる特例です。配偶者は少なくとも1億6,000万円分まで、相続した財産に相続税がかかりません。配偶者控除は、相続時に婚姻の届け出をしていることで適用を受けることが可能となるため、事実婚の夫婦であった場合、注意が必要となります。
未成年者控除
未成年者の法定相続人が負担する相続税から、20歳(令和4年4月1日以後は18歳)になるまでの年数1年につき、10万円を控除します。例えば、相続人が10歳の場合、(20-10)× 10万円 = 100万円を相続税から控除することが可能です。
障害者控除
障害者の法定相続人が負担する相続税から、85歳になるまでの年数1年につき、10万円(特別障害者の場合には20万円)を控除することが可能です。
相次相続控除
被相続人が過去10年以内に支払った相続税がある場合、その一部を今回の相続税額から控除することができます。
マイナス財産を見直す
相続財産は預金や不動産、株式や保険などのプラスの財産のほか、借金などのマイナス財産も含まれますが、そのマイナスの財産はプラスの財産から差し引くことができます。そのため相続税の計算の際は、細かく集計をすることが大切です。
被相続人の債務を相続した相続人や、葬式費用を負担した相続人は、その債務の額や葬式費用を受け取った財産額から控除することができます。被相続人の「債務」とは、被相続人の借金や未払いの料金、税金といったマイナスの財産のことです。ただし、相続開始の時に被相続人の債務の額が確定していないものは控除できません。
被相続人の「葬式費用」とは、被相続人の通夜や葬儀の費用、火葬や納骨の費用、御遺体の捜索や運搬の費用などのこと。ただし、香典返礼費用や、亡くなってから購入した墓地などは、含まれないため注意が必要です。
まとめ
相続が発生した後でも、税金を抑えるための手段は多数あります。しかし、いずれも相続に関する知識や経験がないと対応することが難しく、また網羅的に抑えることも困難です。さらに、状況によっては何も打つ手がないという状況も考えられますので、相続の対策はやはり生前に検討をしておくほうが良いでしょう。お一人で検討することが難しければ、相続の専門家へのご相談をお勧めいたします。
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・http://kyotomedialine.com)
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)