岩手の伝統工芸で知られる南部鉄器。その中心地として栄えた奥州市水沢羽田地区に、初代・及川利源太が嘉永元(1848)年に宝生堂を創業。伊達藩の庇護のもと、伊達家のお抱え釜師となり、茶釜作りに精を出した。これが170年以上続く南部鉄器の老舗「及富」の起源である。
「南部鉄器の鉄瓶で沸かした湯は、角がとれ、まろやかになります。さらに、鉄瓶の鉄分が湯に溶け出すので、鉄分補給にもなります」と、及富8代目の菊地章氏。
鉄瓶作りは、まず鉄を流し込むための砂型を作る。約1400℃の鉄に耐え得る特殊な型だ。そして、昔ながらの甑炉と呼ばれる溶解炉で鉄を溶かし、湯汲みという柄杓で砂型に鉄を勢いよく流し込む。
「鉄の重さは水の約7.9倍。この重みに耐え、流し込みの勢いを調整できるのは熟練の職人だけ。鉄が固まったら研磨をし、窯焼きします。窯焼きをすると鉄瓶が酸化被膜でコーティングされ、錆びにくくなるのです。窯焼き後の着色では、岩手の星空を表現しました」(菊地氏)
青地に金のアラレ模様が美しい四角い鉄瓶は、小粒のアラレや曲線を生かした見事な造形で、眺めるだけで心地よく、対角線上に付いた注ぎ口は、そっと傾けるとなめらかに湯を注げる。風情ある鉄瓶は、傍らに置きたい芸術品だ。
【今日の逸品】
南部鉄器鉄瓶 正方角アラレ 星月夜
及富
16,500円(消費税込み)