文・写真/倉田直子(海外書き人クラブ/オランダ在住ライター)
旅行で訪れても、その国の「ごみ捨て事情」まではなかなか見えてこないのではないだろうか。けれど国が変われば、日常のごみ処理風景も全く異なってくる。今回は、ヨーロッパのオランダから、ごみ捨てにまつわるあれこれを紹介したいと思う。
投げ捨てられたごみを上手くキャッチするごみ箱
オランダは、言わずと知れた自転車大国。2019年のデータでは、オランダの人口1728万人に対し、国内の自転車保有台数は推定2290万台だったという。国民は幼少期から自転車に慣れ親しんで育つので、スポーツとしての自転車競技にも強い。2021年に開催された東京オリンピックでも、金メダルの数こそイギリスより1つ少なかったが、メダル全体の数ならトップのイギリスと同数の12個も獲得しているのだ。
そんな風に日常生活で自転車を愛用するオランダでは、サイクリストが走りながらゴミ箱めがけてごみを投げることもある。仮に上手く入らなくても、残念ながらそのまま走り去ってしまうことがほとんどだ。そのため、沿道のポイ捨て防止のためにとあるごみ箱が開発された。
それが、この形状のごみ箱だ。一見すると、ごみ箱に帽子が被せられているようにも感じられる。けれどこの放射線状の付属物が、的外れな方向に投げ捨てられたゴミも上手くキャッチできるようになっているのだ。
正面から見ると、こうなっている。確かに、投げる際の的が広いことがわかる。これなら、ごみのキャッチ率も高いだろう。主に郊外の道路わきに設置されているので、オランダでサイクリングする機会があれば、ぜひ探してみてほしい。
家庭ごみ回収が豪快
家庭ごみの回収も、日本とは異なる光景を生み出す。
郊外の住宅地などでは、回収日に家の前のごみ箱を出し、収集車が1軒ずつ回収するという昔ながらのスタイルをとっている場所も多い。けれど都市部の家庭ごみは、近所の収集所に捨てられるようになってきている。それをごみ収集車が回収していくのだが、その光景を初めて見る人は、仰天すること請け合いだ。その流れをご紹介したい。
1.収集車のロボットアームをごみ箱に接続
まず、ごみ収集スタッフが手元リモコンで、ごみ収集車に付属されたロボットアームを操作する。そのロボットアームを、ごみ箱の上部に接続するのだ。
2.ごみ箱の吊り上げ
そのロボットアームが地中に埋まっているごみ収集箱を、UFOキャッチャーのように吊り上げるという豪快な仕様になっている。
3.ごみの落下
トラックの上までごみ箱が来ると底が抜け、収集車にごみが落下する。そして開いた底を収集車の背面に器用に押し付け、蓋が閉じられる。それをその後、再びリモコン操作でごみ箱を地中に戻すという流れだ。
筆者の家から百メートルほど離れた場所にガラス瓶ごみの集積所があるのだが、その落下音で「いま収集中だな」とすぐわかる。最初はその騒音に驚いたりもしたが、今では生活音としてすっかり慣れた。
ごみに残った個人情報から罰金を請求されることも
前項目で紹介した収集箱の容量を超えると、近隣住人はごみを捨てられなくなってしまう。その場合も、ごみ箱に記されたサービスデスクに電話連絡をすると収集日以外でも回収してもらえることがあるという。けれど、ほとんどの住民はごみ箱の横に自分のごみを放置していく。
ただし段ボールの廃棄物などに宛名が残っていると、これを特定され自治体からごみ廃棄の罰金の請求が届くことがある。筆者の知人のなかにも、実際に請求された経験のある人が2名いる。一般家庭への罰金は95ユーロ(約1万2千円)から。ただし思い当たることのない濡れ衣の場合は、異議申し立ても可能だという。
このように、オランダのごみ捨て事情は日本とは大きく異なっている。オランダ観光の際には、ぜひ変わった形のごみ箱やロボットアーム付き収集車などを探してみてほしい。
文・写真/倉田直子(海外書き人クラブ/オランダ在住ライター)
北アフリカのリビア、イギリスのスコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主にオランダの文化・教育・子育て事情、タイニーハウスを中心とした建築関係について執筆している。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。