慢性的な腰痛であっても、ちょっとした身体の使い方で痛みを改善したり、予防したりすることができます。
正しい身体の使い方を身につけて、腰痛にならない身体になりましょう。
腰痛にならない身体の使い方とは?
「身体の使い方だけで腰痛が良くなる」と言われても、にわかには信じられないかもしれません。
長く腰痛に悩まされている方ほどそう思われるでしょう。
筆者もそんな一人でした。
筆者は、18歳で腰痛坐骨神経痛を発症して以来、長年腰や脚の痛みに悩まされていました。
しかし、30代の半ばにその『正しい身体の使い方』を身につけてからは、劇的に腰痛坐骨神経痛が改善したのです。
『腰痛にならない正しい身体の使い方』とは、端的に言うなら『腰の力を抜く』ことです。
今回はその具体的な方法、トレーニングのやり方をご紹介します。
腰痛は腰の筋肉の緊張
筋肉は、負担がかかり続けて疲労すると、徐々に凝り固まってしまいます。
そのまま疲労が蓄積していくと筋肉が過緊張をおこします。
さらにそのまま過緊張状態が続くと、筋肉内に【発痛点=トリガーポイント】というしこり状の硬結(固まり)ができてしまい、そこから強い痛みやしびれなどが起こります。
このように筋肉の過緊張=トリガーポイントから起こる痛み症状を、【筋筋膜性疼痛症候群】といいます。
例えば腰周囲の筋肉にトリガーポイントが生じると、以下の図のような痛みを起こします。
画像の✖印がトリガーポイントの好発部位、赤い部分が痛みの出やすいエリアになります。
もちろん腰痛にも様々な原因があるので、すべての腰痛の原因が筋肉の緊張=トリガーポイントと一概に言い切ることはできません。
しかし例えば、腰を指圧やマッサージされると気持ちよくて、一時的にでも痛みが楽になることはありませんか?
このような場合は、腰の筋肉の緊張が痛みの一因になってることは間違いないでしょう。
そうであれば、『正しい身体の使い方=腰の力を抜く』を身につけることで、痛みが改善する可能性が高いと思われます。
トリガーポイント・筋筋膜性疼痛症候群については本連載ではおなじみですが、詳しくは以下のページをご覧ください。
腰痛・坐骨神経痛のトリガーポイント治療(https://www.re-studio.jp/backpain/pg122.html)
腰の力を抜くにはお腹に力を入れる
単純に腰の力を抜こうとすると、腰を丸めて猫背の姿勢になってしまうでしょう。
しかし、それでは『正しい身体の使い方』にはなっていませんので、腰の痛みは良くならないか、腰は大丈夫でも別の場所に痛みや不具合が起こるでしょう。
実は、腰の力を抜くためには、反対側のお腹にしっかり力をいれる必要があるのです。
筋肉は多くの場合、関節を挟んで前後左右裏表でペアになっている筋肉があります。
そしてそれらのペアになった筋肉は、それぞれ反対の作用をします。
このように、ペアで反対の動きをする筋肉を拮抗筋といいます。
例えば腕の筋肉でみてみると、肘を曲げると力こぶができますが、これは上腕二頭筋という筋肉です。
上腕二頭筋に力を入れると収縮して前腕の骨を引っ張ることで肘が曲がります。(下図)
この時、ペアになる拮抗筋の上腕三頭筋は自動的に弛緩して伸びるため、関節がスムーズに曲がります。
このように、拮抗筋は片方に力を入れると反対の筋肉は力が抜けるのです。
腰の筋肉の場合、反対側の腹筋がそのペアになる筋肉=拮抗筋です。
ですから、腹筋に適切に力を入れることで腰の力が抜けやすくなります。
逆に言えば、普段お腹の力が弱かったり抜けてしまったりしているので、拮抗筋である腰の筋肉が緊張して痛みをおこしてしまうのです。
【正しい身体の使い方】とは【正しい力の入れ方と抜き方】
それでは具体的に正しい腹筋の力の入れ方と腰の力の抜き方をおこなってみましょう。
まず下の図を見てください。
この図は、骨盤と背骨を体の右側から見た透視図になります。
左が正しくお腹に力が入り、腰の力が(適度に)抜けた状態です。
正しくお腹に力が入ると、左のように骨盤が真っ直ぐに立ち、背骨もゆるやかなカーブを描きます。
しかし右は骨盤が前に傾き(前傾)、腰の反りが強くなっているのがおわかりになるでしょうか?
これはお腹の力が抜けてゆるみ腰が緊張している状態、つまり腰痛になりやすい状態です。
実際、筆者の腰痛トレーニング研究所に来られる患者さんでは、右のようにお腹の力が抜けて腰が反ってしまっている方が多いです。
これを左のように正常に戻すためには、下図のように、恥骨を腹筋でみぞおちの方向に少し引き上げるように力を入れます。
そうすると、骨盤は少し後ろに倒れるように傾き(後傾)、骨盤と背骨が正常なポジションに近づきます。
このことで腰の筋肉は適度に力が抜けるため、腰の負担や筋緊張が減るのです。
しかし、腰痛の方がいきなり立った姿勢でこれをおこなうのは難しいでしょう。
筆者の腰痛トレーニング研究所では、まず寝た姿勢で練習することをおすすめしています。
以下を参考におこなってみてください。
※画像では専用のポールに乗っておこなっていますが、床に寝たままおこなっても同じような効果があります。
1. 床にあおむけになり両膝を立てた姿勢をとる。
2. 腹式呼吸の要領で、鼻から息を吸ってお腹を膨らませ、口をすぼめて天井に息を吹きかけるようにしっかりと吐き切る。
息を吸うのは軽く、吐くときはお腹の底からしっかりと吐き切ります。
3. 息を吐きながら下腹部と肛門(骨盤底筋)を締める
うまくしっかり吐き切りながら肛門を締められると、下腹部に強く力が入り、固くなるのがわかります。
4. 息を吐きながら下腹部と肛門(骨盤底筋)を締め、恥骨を引き上げて腰を丸め、床に押し付ける。
恥骨を引き上げるとは、みぞおちの方に向けて腹筋で引き上げるようにすること(下画像オレンジ矢印)です。
すると骨盤は後傾方向に回転します(黄色矢印)。
5. このトレーニングを1日30回を目標におこなってみましょう。
いっぺんに30回でも構いませんし、10回ずつ朝昼晩のように分けても構いません。
トータルで30回が目安です。
30回以上できるようなら、やればやるほど効果は出ます。
しかし、腰や背中、脚などに余計な力みがあると、かえって痛みを起こすことがありますので、その点はご注意ください。
また効果が出てくるまでには少し時間がかかります。2週間から1ヶ月程度は根気よくトレーニングを続けてください。
このトレーニングをおこなうことで痛みが出たり、または痛みのためにこのトレーニング自体ができないようでしたらやめてください。
以下の記事でも様々な腰痛・坐骨神経痛改善エクササイズをご紹介しております。
ぜひお読みください。
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拙著「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい」が、全国書店にて発売となっています。
お読みいただけると幸いです。
文・指導/川口陽海 厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。著書に「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(発行:アスコム)」がある。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616 http://www.re-studio.jp/index.html