この不安定な世の中、会社が潰れてしまうかもしれない、という不安を持つ経営者の方も多いことだろう。マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研」から、現在の状況での経営者の心構えを知ろう。

* * *

「お金を借りても、経営が立ち直らずに会社が潰れたら?」などと、考える必要はない。 借りられるお金は何が何でも借りること。

先日、社労士をやっている友人から珍しく相談を持ちかけられた。

「聞いて欲しいんやけど、顧問先の経営者からどうしたらいいか、アドバイスを求められてるんよ。コロナの影響でみんな本当にどうしようもなくて、頭抱えてるねん」

「どうもこうもないやろ。今は出る金をできるだけ絞って、借りられるお金はなにがなんでも借りに行けって言うしかないやん。あ、もちろん国金(日本政策金融公庫)や協会(信用保証協会)だけやからね」

「そんなことわかってるよ。でも私、今の状況で『なにがなんでもお金を借りて生き延びろ』って、社長たちにアドバイスできへんのよ」

「なんでやねん」

「だって、この状況はいつまで続くかわからへんのよ?必死になってお金を借りて雇用を守っても、結局会社が立ち直れなかったら、経営者には借金だけが残るんよ?」

「ええから『とにかく生きて下さい。今は必死になって、借りられるお金を全て借りてください』って顧問先にアドバイスしろって。雇用とかそんなことは、経営者が自分で答えを出す。繰り返すけど、勧めていいのは公的融資だけやからな」

「・・・わかった」

それから1週間ほど後。

「先日はありがとう。言われた通りアドバイスして、みんな早めに公的融資を申し込む段取りに進めたわ。感謝された」
「うん。士業に相談する経営者も客観的なアドバイスは欲しがるけど、実はみんな腹は決まってるよ」

「社長さんの中には従業員に、『俺は借金まみれになってでも皆の雇用を守る。だから皆も、本気で俺について来てくれる人だけ、残って欲しい』って一人ひとりと面談した人もいるねん。何人か辞めた人もいたけど、逆に覚悟が決まったって」

自分で言っておいてなんだが、このアドバイスが結果として経営者個人の人生にとって良かったのか悪かったのかなど、私にはわからない。

この後、結局どうにもならず借金だけ膨らませて会社を潰す人も何人かいるだろうとも、正直思っている。
しかし少なくとも、悔いのない判断ができる時間の猶予だけは、稼げるはずだ。

会社はいつ潰れるのか

お金が急激に減り続ける恐怖は相当なものだ。

そして、このままでは間違いなくお金が無くなり、会社や生活が破綻する近未来しか見えない恐怖も。
海の底で足を取られ身動きが取れないような、数分後に確実に溺死する恐怖でパニックになる感情に近い。そんな時に、人は冷静な判断などとてもできない。

だからこそ、まずは現預金を確保し通帳残高を増やし、一瞬でも心の余裕を持つ必要がある。

そんな感情を、CFOでも会社経営者としても経験したことがある。

中でもキツかったのは、中堅製造業でのTAM(ターンアラウンドマネージャー)としての経験だった。
IPOを期待されていた会社で、経営企画のポジションで取締役に就いたもののその実態はTAMだ。

銀行系、証券系、独立系など多くのVC(ベンチャーキャピタル)から投資を受けていただけに、経営失敗の責任追及は中途半端なものではない。

深夜の3時まで鬼詰めにされることもザラで、正直「なんで俺がこんな責任を追求されなあかんねん・・・」と思ったこともあったが、それがTAMというものである。

カルロス・ゴーンのようなポジションならともかく、名もない中小企業の無名のTAMなど、殺気立ったステークホルダーの矢面に立つただの被害担当艦だ。上手に殴られてナンボで、経営トップの心身の健康を損ねないよう、ひたすら代理攻撃を受け続けることも大事な仕事になる。

そして、さらに状況が悪化すると株主の叱責やP/L、B/Sの結果の悪さなど、次第にどうでも良くなってくる。

やがて見るものはCF(キャッシュフロー)だけになっていくのだが、それも当たり前の話だ。会社は赤字になっても潰れないし、債務超過になっても倒産しない。会社が潰れるのは、キャッシュが尽きた時だけなのだから。

だからこそ、現預金が勢いを増して減り続ける恐怖だけは本当にどうにもならなかった。
そして土地建物といった、まとまって流動化をアテにできる資産も無くなると、最後には換価が現実的ではない機械設備の売却額の目安まで調べ始める。

この頃には、自分でもまともな判断力を失いつつあることを自覚できるようになる。

そして今、コロナウイルスの影響で多くの会社経営者が、同じような心境に追い詰められている。
まともな判断力を失い、経営者としての矜持、モラル、信念が揺らぎはじめていることを、さまざまな方面から感じている。

失敗の本質~日本軍の組織論的研究~に学ぶ

このコロナとの戦いは世界中の指導者が戦争に例えるが、本当に状況は戦時下だ。

では、本物の戦場で戦うことが求められる軍事組織の指揮官たちはどのようにして、強いストレス環境下でも冷静さを維持し、その上で厳しい決断を下す訓練を積んでいるのだろうか。

組織論の名著と言われる「失敗の本質~日本軍の組織論的研究~」は、こんな状況だからこそ改めて読み返したい、経営者にとって参考になるそんな内容に溢れている。
同著は1984年(昭和59年)、つまり今から36年も前に著された一冊だが、今なおその本質に迫る内容は色褪せることがない。

ただ、同著は第二次世界大戦のケーススタディを中心に話が進むため、率直に言って卑近な事例として想像がしにくいというネガティブな評価も根強い。
そのためここではシンプルに一つだけ、日本が戦争に破れた、戦時下における組織としての意志決定の過ちの事例を紹介したい。

意外に思われるかも知れないが、日本は1942年6月、つまり太平洋戦争が始まってから半年間は負け知らずの勢いで、あらゆる戦闘で米軍を破り続けた。
そんな日本軍が初めて敗北を喫し、歴史的な転換点となったのは1942年6月に生起したミッドウェー海戦だった。

この海戦で、日本は戦いに参加した主力空母を全て撃沈され、真珠湾以来の熟練パイロットを多く失ってしまう。そして戦いは守勢に回り、以降一度も戦いのイニシアティブを回復すること無く敗戦に追い込まれた。

しかしながら実は、この戦いが生起する直前。

米軍は迫りくる日本軍の暗号を解読してその戦力や作戦内容を全て把握していたにも関わらず、米太平洋艦隊司令長官であったチェスター・ニミッツは、
「避けられない悲劇の結果を、少し早く知ることができたに過ぎなかった」
と回顧しているほどに、とても勝てない戦いだと判断していた。

しかし結果として、日本海軍が一方的に壊滅的な敗北を喫した。なぜか。

日本海軍はこの戦いに臨む時、その作戦目的を最高幹部の間ですら曖昧なまま、部隊を進めた。
本来であれば、この戦いの作戦目的は米海軍の空母を殲滅することだった。

しかし、米軍の空母と会敵できない場合はミッドウェー島を占領すればいいとも、日本海軍の最高幹部は考えていた。
そのため現場で戦う空母機動部隊には、米軍の空母を発見したら殲滅し、発見できない場合にはミッドウェー島を占領するよう命令していた。

そして実際の戦いでは、その初期において米軍の空母部隊を発見できなかったためにミッドウェー島への攻撃を開始するのだが、その最中に米軍の空母機動部隊と会敵したために、現場は大混乱に陥る。

そして、そんな日本の空母機動部隊に米軍は容赦なく襲いかかり、全く統率が執れなかった日本海軍は敵に勝る圧倒的な戦力を擁していたにも関わらず、一方的に敗れ去った。

にわかには信じがたい拙さだが、これが当時、世界最強と言われていた日本海軍の空母機動部隊が壊滅した戦闘の、ざっとした経緯である。

最大の禁忌の一つ「dual purpose(二重の目的)」

そしてこの一連の流れは、実は軍事上の最大の禁忌の一つである「dual purpose(二重の目的)」という失敗を、まともにやらかしているだけに過ぎない。

決して難しいことではなく、軍人であれば誰でも知っているような基本中の基本であって、特別な人間しか知らないような考え方でもない。
軍事作戦を立てる時、すなわち究極のストレス下にある部隊に命令を発出する時、目的は一つに絞らなければならないというものだ。

「~の場合には~をせよ。但し、~が前提であって、~のような場合には中止を検討してもよい」

というような命令を出されたとして、コンマ1秒を争うような戦場で指揮官がプライオリティをつけることなど、絶対にできるわけがない。

だからこそ、冷静な判断力を失うことが前提の環境下では、作戦目的は一つに絞らなければならない。
そんな軍事上の基本中の基本を怠った日本海軍は、相手に勝る兵力を擁しながら戦闘に敗れた。
組織の運営方針を曖昧にし、指揮官から冷静な決断力を下す環境を奪った戦闘の、当たり前過ぎる帰結だった。
この辺りの経緯は、「失敗の本質~日本軍の組織論的研究~」P70、P270あたりに詳しいので、興味があれば参考にして欲しい。

会社やお店を潰してもいいと思っている経営者など、いない

そして冒頭、社労士の友人に「今は必死になって、借りられるお金を全て借りてくださいと、顧問先にアドバイスしろ」と言った理由についてだ。

「そんなアドバイスできない」と言う彼女を全否定した理由も同じだが、会社やお店を潰してもいいと思っている経営者など、いない。
心が折れかけている経営者も中にはいるかも知れないが、社労士である彼女にアドバイスを求めている時点で、「何とかして生きたい」と本気で願っているのはわかりきっている。
上手に会社を潰し、自分の財産と保身を優先で確保しようと考えている経営者なら、誰にもバレないように弁護士に相談しに行く。

だからこそ、「会社を存続させるためには何をしなければならないか」という作戦目的にかなう行動を、シンプルにアドバイスした。

今、先が見えない戦時下で冷静な判断力を失いかけている経営者には、
「いったん深呼吸をして、気持ちを落ち着けるだけの現預金残高」
以上に必要なものはない。

だからこそ、
「でも、借りても経営が立ち直らずに会社が潰れたら?」
などという前提条件を考える必要もない。それは作戦目的ではなく、結果の可能性の一つだからだ。まして、その事態に備えた行動を今、考える必要など全く無い。

恐怖に心が負けそうな時ほど、行動も考えもシンプルにすべきだ。

* * *

いかがだっただろうか。経営者として、シンプルに「会社を存続させるためには」を考え、行動することが大事だということがおわかりいただけただろうか。
引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/

 

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