独特の存在感を放ち、何ともいえない居心地のよさ。古き良き鉄道風景が残るローカル線の駅を巡る旅へご案内。
地域の表玄関として街の盛衰を見つめてきた古い駅舎は独特の存在感を放つ。人々が往来した改札口、日夜、運行の安全を支える鉄道マンが守ってきたホーム。歴史が刻まれた駅に佇むと、何ともいえない居心地のよさを感じる。
そんな駅に出会いたくて、静岡県の第三セクター、天竜浜名湖鉄道(天浜線)を旅した。
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【遠州森(えんしゅうもり)駅】
森町は大正時代に地理学者・志賀重昂が訪れ、その景観に初めて「小京都」という言葉を使った秋葉は 街道の宿場町。太田川沿いに古い町並みが残り、その中心にある遠州森駅も古き良き駅の風景を伝えている。駅のレンタサイクルで周辺の散策も楽しめる。営業時間:9時~15時30分
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天浜線の前身の国鉄二俣線は、戦時体制下の昭和15年(1940)に全線開業した。海岸沿いを走る動脈、東海道本線が攻撃されたときの迂回路として、新路線が建設された。そんな歴史をもつ天浜線では、駅舎をはじめ、ホーム、転車台、扇形庫など、戦前から使われている多くの鉄道施設が国の有形文化財に登録され、今も現役で活躍している。
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【遠江一宮(とおとうみいちのみや)駅】
古びた木造駅舎や、国鉄二俣線時代の名残でもある低く長いホームがある。周囲に新しいものがなく、まるで時間が止まったかのような停車場の姿。また「遠江」という律令時代からの古い国名を唯一使う駅でもある。天竜浜名湖鉄道の沿線で駅を楽しむために途中下車するとすれば、いちばんおすすめする駅だ。
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掛川駅から3駅目の桜木駅、そのふたつ先の原谷駅は、どちらも切妻屋根に縦長窓の、絵に描いたような木造駅舎だ。古くからの宿場町の駅、遠州森も、駅舎は桜木、原谷とほぼ同形。いずれも昭和10年(1935)の部分開業時から残るクラシックな駅舎だ。立派な屋根を載せた遠江一宮駅では駅舎内の蕎麦屋で本格的な手打ち蕎麦が味わえる。屋根の形は天竜二俣駅、宮口駅とも似通っている。こちらは昭和15年(1940)の開業。建築時期のわずかな違いで駅舎の形が変わるのも面白い。
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【天竜二俣(てんりゅうふたまた)駅】
天竜川沿いに開けた二俣町にある天竜二俣駅。天竜浜名湖鉄道の中核駅で、国鉄二俣線時代には機関区が置かれ、C58形蒸気機関車が配備されていた。今も木造駅舎や転車台、扇形車庫が残り、まるでジオラマを見るような鉄道の小宇宙を形作っている。
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【都田(みやこだ)駅】
天竜川と浜名湖の間に続く里山にある木造平屋の無人駅。昭和レトロな雰囲気の駅舎を、フィンランドのライフスタイルを提唱する地元企業がリノベーションした。そんな個性的な駅の周囲にはぶどうや梨の果樹園がひろがり、駅舎はのどかな景観の一部になっている。
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車両基地がある天竜二俣駅では毎日開催される「転車台&鉄道歴史館見学ツアー」で国鉄時代の車庫や転車台を堪能できる。
列車は天竜川を渡り西に走る。
浜名湖佐久米駅で途中下車。戦後建築のモダンな駅舎内の喫茶店でコーヒーを味わいながら奥浜名湖の風景を楽しんだ。
このように駅に入居する店の数々も天浜線の魅力。1日フリーきっぷで駅巡りの旅に出てみることをおすすめしたい。
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【浜名湖佐久米(はまなこさくめ)駅】
天竜浜名湖鉄道の西側エリアは浜名湖沿岸を走る。なかでも浜名湖佐久米は最も水辺に近い駅で、片面のホームだけの小さな駅。冬になるとユリカモメの群れがやってくることでも有名だ。家庭的な雰囲気の喫茶店がある。『かとれあ』 営業時間:8時30分~19時 定休日:水曜、第3木曜 電話:053・526・1557
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●旅人 杉﨑行恭さん(カメラマン、フリーライター・66歳)
※この記事は『サライ』本誌2020年6月号より転載しました。今回の取材は3月に行っております。今回紹介しました「天竜浜名湖鉄道」ですが、5月9日現在、運行は通常通りのようです。しかし、駅の営業時間・日時が縮小されていますので、ご注意ください。また、鉄道歴史館は当面休館中です。