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国の重要文化財に指定された「東洋初」の地下鉄車両1000形

写真・文/鈴木拓也

■初めて国の重要文化財に指定された電車

日本で、そして東洋でも初めてとなる地下鉄を造るため、大正年間の1920年に東京地下鉄道株式会社が設立された。第一次世界大戦後の不況や関東大震災の打撃により、設立後しばらくは足踏み状態が続くなど苦難の末、1927年末に国内初の地下鉄車両1000形が誕生した。

とかく初めて作られたものは野暮ったいものだが、この1000形は例外。「壁はチーク・マホガニーの木目調でこれらをまとめる心地よい間接照明、そのあまりに綺麗で清潔なことから、下駄を脱いで乗車したお客様があった」(『地下鉄運輸50年史』)と評されるほどであった。

その1000形で現存する車両番号1001号が、公益財団法人メトロ文化財団の運営する地下鉄博物館に展示されている。往時の姿そのままに、鮮やかなレモンイエローが目を引くこの車両は、鉄道史・交通史上の重要性が認められて、2017年9月に国の重要文化財に指定された。「鉄道用電気車両」(つまり電車)としては初の指定である。

地下鉄博物館に展示されている地下鉄車両1000形(車両番号1001号車)

■安全に配慮した画期的な全鋼性車両

1000形は、地下を走行することから、防火性や強度を高めるなど安全性を優先して設計された。当時の鉄道車両は、床や天井にはもっぱら木が使われる半鋼性車両であった。それに対し1000形は、画期的な全鋼性車両とし、床の仕上げ材もセメントや砕石などを混ぜ合わせた米国製の特殊な練物を使用した。また、車両とホームの間隙からの転落を防止するため、車両同士の連結部に「安全折り畳み垣」が設置された。ATS(自動列車停止装置)を日本で初めて導入したのも、この車両である。

ドアは、駅停車時の時間が極力短縮できるよう片側3扉とし、2人が並んで通れるよう1メートルの幅を設け、ドアエンジンによる機械開閉とするなど、随所に新機軸が盛り込まれていた。

側面から見た1000形

■昭和レトロを感じさせる内部

次に車両の内部(客室)を見てみよう。現在の地下鉄車両とさほど変わらない第一印象だが、立っている乗客が屈まずに駅名を読めるよう、窓を大きくしたため、網棚がないのが注目される。代わりに、そこには下部を覆い間接照明とした室内灯が並ぶ。これは、光が直接目に入らず、影ができないようにとの配慮から。塗装も木目調とするなど、全体的にやわらかな雰囲気があり、現代の我々から見れば「昭和レトロ」のたたずまいを感じる。

1000形の客室内部

中央には握り棒としてスタンションポールがあるほか、鉄製でホーロー引きの吊手がずらりと並ぶ。走行中に左右にぶらぶらと揺れないよう、手を離すとバネで跳ね上がるリコ式だが、乗客の頭部に当たる危険性があり、後に現在も使われている吊り輪式に改められた。

使用しないときはバネで窓側の定位置に戻る吊手

前方の運転室は、電話ボックスぐらいの狭い空間。これは、客室内をできるだけ広くするためだけでなく、前方に非常口を設ける必要性もあったため。

運転室は車両前方の左隅に位置している

運転室の背後には、乗客の迷惑行為を禁じる掲示がある

 

※1000形の客室は特別公開日にのみ入ることができる。(公開日についてはhttp://www.chikahaku.jp/contents/notification/2018/1001_1103.html を参照)

1000形は、浅草~上野間(2.2km)の短い路線に投入された。この路線は後に、浅草から新橋そして渋谷へと延伸され、1953年に銀座線と名付けられた。1000形は、細かい改造を施されながら長らく運行し、1100形や1200形といった増備車両ならびに新橋~渋谷開業に合わせて製造された100形とともに、1968年まで活躍した。

100形車両(129号車)のカットされた車体と台車も同博物館に展示

■地下鉄の歴史を物語るもう1つの車両300形

戦後復興が一段落した1954年、銀座線に次いで都内で2番目(国内で4番目)に開業した丸ノ内線。この路線に導入されたのが300形だ。

300形の基本設計方針は、欧米先進諸国の車両に劣らない性能、1000形よりも安全で加速・減速に優れるなど野心的なものであった。この方針の実現のため、小型・高出力のモーターや、発電ブレーキと空気ブレーキが自動的に切り替わるSMEE型電磁直通空気ブレーキの採用など様々な工夫が施され、今の地下鉄の元祖的存在となった。

この300形の301号車が、同博物館の1000形の隣に展示されている。

地下鉄博物館内の1000形の隣にあるのが丸ノ内線車両300形

何よりもインパクトがあるのが、あざやかな赤の塗装、そして側面に走る波形の模様だ。このアイデアは、営団総裁の鈴木清秀氏らが、欧米の都市交通事情を視察した際に生まれたという。色は、視察先に向かう英国欧州航空の機内で買ったタバコ「ベンソン・アンド・ヘッジェズ」の缶の色から、波形模様はロンドンの遊覧バスのボディに描かれていた模様に着想を得たとか。

300形は、丸ノ内線の開業時に30両が搬入された。1959年の池袋~新宿間全通に向けて導入された500形とともに高度経済成長期を走り抜けたのち引退。一部の車両は、アルゼンチンのブエノスアイレス地下鉄に売却され、長く活用された。

*  *  *

地下鉄博物館には、こうした歴史的な車両のほか、地下鉄開通当時の改札、トンネル掘削工事の模型、シールドマシンのカッターディスク部分の現物など、地下鉄の歴史と今を学べる様々な展示物がある。子供も楽しめる施設やミュージアムショップもあるので、家族連れの行楽で立ち寄るのもおすすめだ。

副都心線のトンネルを掘削したシールドマシンのカッターディスク

大人も子供も夢中になる模型電車が動くパノラマ(模型を走らせるのは11時、13時、14時、15時半の4回)

■地下鉄博物館
住所:江戸川区東葛西六丁目3番1号 東京メトロ東西線葛西駅高架下
電話:03-3878-5011
FAX:03-3878-5012
アクセス:東京メトロ東西線葛西駅下車。「地下鉄博物館」方面出口改札を出て、階段を左へ降りる。
開館時間:10時~5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:毎週月曜日(祝日・振替休日の場合、その翌日)および12月30日~1月3日
入館料(高校生以上):210円

参考資料:
『東京地下鉄 車両のあゆみ』(東京地下鉄株式会社編著/ネコ・パブリッシング)
『地下鉄クロニクル 地下鉄車両のしくみシリーズ』リーフレット(メトロ文化財団)

写真・文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

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