■16:外川駅(銚子電鉄)
――古い日本映画を見るような終着駅の小宇宙
千葉県・犬吠岬(いぬぼうざき)の台地を、銚子電鉄の電車は一駅一駅停まりながらゆっくりと走る。ゆらゆら揺れながら進む乗り心地は、ついつい眠気を誘う。
終着の「外川(とがわ)駅」は「これ以上進むと坂から落ちる」と近所のおじさんが言うような場所にある。
海岸段丘の上に建つ木造平屋の駅舎は、電車が大きく見えるほどのコンパクトサイズ。しかも駅名看板がなければ、倉庫かと思うほど飾り気のない建物だ。
それでも黒板の運賃表や鉄パイプの改札口が残り、「駅舎の雰囲気に合わせて舗装をはがした」という駅前広場には、なつかしい丸ポストも立っている。
ホームの端には廃車体も留置され、古い枕木で囲われた車止めの先には太平洋も見える。そんなひとつひとつが、古い日本映画を見るような終着駅の小宇宙をつくり出している。(>>詳細記事はこちら)
【外川(とかわ)駅 (銚子電鉄)】
■ホーム:1面1線
■所在地:千葉県銚子市外川町
■駅開業:1923年(大正12)7月5日
■アクセス:銚子駅から電車で20分
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■17:城端駅(JR城端線)
――120年の風雪を経た堂々たる黒瓦の終着駅
北陸新幹線に乗って新高岡駅で降り、非電化単線の城端線をのんびり走ること約50分、初夏になればチューリップが咲き、教科書にも乗っていた散居村が続く砺波平野を走り、ようやく前に山が迫るところで終着の「城端駅」に着く。
駅舎は明治31年建築という、開業の頃からの駅舎だという。駅前に出てふり返ると、くろぐろとした能登瓦を乗せた屋根から、旅客待合室にひさしを伸ばす駅舎が夕日に照らされていた。
白く塗られた外壁は分厚そうな下見板張りで駅前の植え込みも立派、開業以来120年の風雪を経たたたずまいが心地よい。(>>詳細記事はこちら)
【城端駅(JR西日本 城端線)】
■ホーム:2面2線
■所在地:富山県富山市是安
■駅開業:1898年(明治39年)10月31日
■駅舎竣工:1899年(明治31年)10月
■アクセス:北陸新幹線新高岡駅から城端線で50分
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■18:長駅 (北条鉄道)
――映画のような百年駅舎の懐かしき情景
兵庫県の播但平野を走る北条鉄道を訪ねた。この路線はJR加古川線の栗生(あお)駅から北条町駅を結ぶ13.6㎞の小鉄道で、その昔は国鉄北条線と呼ばれていた。
さかのぼれば大正時代に開通した私鉄の播但鉄道に始まる路線で、今も大正時代の駅舎が残るローカル風情豊かな鉄道となっている。
『長(おさ)』という駅は、カワラ屋根に漆喰塗りの建物はかなりくたびれているが、横には公衆トイレ、駅頭に電話ボックスを従えた小さいながらも停車場の構え。
待合室には使い込まれたベンチに手編み風のマットがおかれ、板ガラスに木製サッシの窓という嬉しくなるような駅舎は、軒に張られた『建物財産票』では大正4年2月と表示されていた。ここは大正時代から続く、100年モノの駅舎なのだ。
駅構内には古いホームが残り、地元の人達が植木の手入れをしている。なにもかも、絵に描きたくなるような駅の情景があった。(>>詳細記事はこちら)
そして、この駅は有人駅。電車が長駅に停車すると、運転士は駅長と会話交わし、警笛を鳴らしてまたゆっくりと発進していく。そして列車が小さくなるまで敬礼を続ける駅長。まことによき風景、この一連の流れはまるで映画を見ているようだ。
【長(おさ)駅 (北条鉄道)】
■ホーム:1面1線
■所在地:兵庫県加西市西長町
■駅開業:1915年(大正4年)3月3日
■アクセス:加古川駅からJR加古川線で粟生駅で北条鉄道に乗り換え、約50分
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■19:飛騨小坂駅(JR高山本線)
――古き良き山小屋のような静寂の木造駅舎
飛騨の名湯、下呂温泉を出たJR高山本線の下り列車は、エンジンを吹かしながら勾配に挑んでいく。やがて衝立のような山が迫ってくるところに飛騨小坂駅がある。
壁も柱もなにもかも、駅舎のあらゆるところに太い丸太を配した丸太小屋の駅だ。しかも土台には丸い自然石を埋め込み、天井は白樺を飾るなど細かなところまで作り込んだ建物は、よき時代の山小屋のような雰囲気にあふれている。
駅前に立って駅舎を見る。車寄せの柱まで丸太を飾ったログハウスながら、玄関の軒に神社風の千木もある。
飛騨小坂駅舎の建築は1933年(昭和8)と記録にある。鉄道による観光が普及した時代、登山客にアピールするため地元の杉やヒノキをふんだんに使って建てたのだろう。かつては乗降客数に応じて『小停車場駅本屋標準図』(昭和5年)による駅舎が建てられていたが、やがて地域色を出す駅舎が全国に建てられていった。駅舎めぐりをしていて一番おもしろい時代だ。(>>詳細記事はこちら)
【飛騨小坂(ひだおさか)駅】(JR東海 高山本線)
■ホーム:1面2線
■所在地: 岐阜県下呂市小坂町大島
■駅開業:1933年(昭和8年)8月25日
■アクセス:JR東海道本線岐阜駅から普通列車で約2時間30分
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■20:奥多摩駅(JR青梅線)
――古き良き山小屋のような終着駅
JR青梅線に乗って終着の奥多摩駅はクラシックホテルのような駅舎だ。高々と軒を掲げたヨーロッパ調のロッジスタイル、背の高い見事なプロポーションだ。玄関の車寄せの柱や窓の手すりにも丸太を使い、遊び心のある丸窓がアクセントになっている。良き時代の山小屋山を思わせる。
この駅舎(当初は氷川駅)が完成したのは太平洋戦争末期の昭和19年のこと。沿線には御嶽駅や鳩ノ巣駅など、産業鉄道では考えられないような凝った駅舎が建てられた。おそらく、奥多摩渓谷が将来観光地になることを見越していたのだろう。(>>詳細記事はこちら)
現在奥多摩駅舎の二階はアウトドア用品のショップ兼カフェになっていて、窓際の席からホームがよく見える。
【奥多摩駅】(JR東日本 青梅線)
■ホーム:1面2線
■所在地: 東京都西多摩郡奥多摩町氷川210
■駅開業:1944年(昭和19年)7月1日
■アクセス:東京駅から青梅駅乗り換えで約2時間
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■21:川湯温泉駅(JR釧網本線)
――北海道随一の美しい木造駅舎
釧路と網走を結ぶJR釧網本線は、道東の大地を南北に走る169kmのローカル線だ。釧路駅から約1時間30分、車窓に噴煙を上げる活火山、アトサヌプリが見えてきたところに北海道屈指の名駅舎「川湯温泉駅」がある。
赤い屋根に白い三角ファサードが青空に映え、車寄せの柱にはイチイの大木を合わせるなど銘木をふんだんに使ったログハウスの駅舎は、木造駅舎としては北海道ナンバーワンの美しさだ。
この開拓地にそんな駅舎が建てられたのも、弟子屈町内に摩周湖もすっぽり入るほどの広大な皇室御料地があり、皇族の訪問が予想されたこともあったからという。
現在、無人駅になっている川湯温泉駅舎には、駅事務室を利用したレストラン『オーチャードグラス』があり、奥の客室は貴賓室を利用したものだという。駅を借りて店をオープンしたレストランのオーナーは「戸棚の中に菊の紋章入りの什器があった」と語っている。(>>詳細記事はこちら)
駅からは標高512mのアトサヌプリが間近に見える。銘木をふんだんに使い、大工が競って建てた川湯温泉駅は、おそらく日本一活火山に近い鉄道駅ではないか。
【川湯温泉駅】(JR北海道 釧網本線)
■ホーム:2面2線
■所在地: 北海道川上郡弟子屈町川湯駅前
■駅開業:1930年(昭和5年)8月20日
■アクセス:釧路駅から約1時間30分
文・写真/杉﨑行恭(フォトライター)
編/編集部