《3日目》姫路 13:57 ~ 米原 16:24
姫路から米原までは「旅行」と言うより「移動」している気分だ。関西の電車らしくクロスシートなのはありがたいが、車内はやはりずっと混んでいて、一人でお弁当を開いて食べるのはちょっと辛いシチュエーションであった。
それにしてもさすが新快速、速い速い。新幹線も並行しているが、相生や姫路、西明石に停まる新幹線は少ない。乗り継ぎを待つなら、赤穂線のご夫妻が言うように新快速を使った方がよほど早い。
途中、大阪駅に到着。ホームごと大屋根で覆われたが、建築当時の面影を残す鉄柱はモニュメントとして残されている。このあたりのセンスは素晴らしい。
新大阪のとなり、東淀川駅を通過。ここの踏切は今では珍しい有人踏切だ。線路の本数が多すぎて、途中で引っかかってしまう車が出るため、万が一に備えた安全管理なのだ。
通るのは東海道線緩行列車、新快速と特急、貨物列車と大変な数。一日中張り付く仕事で、大変なハードワークだ。カメラのシャッタースピードを1/1250に上げて待機。新快速は踏切をホンの一瞬で通り抜けた。
関西圏はすれ違う列車を眺めているだけでも楽しい。山陽電鉄、阪急、阪神に加え山陰方面と北陸方面の特急が車窓を飾る。新快速は特急並みの速度で駆け抜ける。
車内は少し立つ人がいる程度。お昼の電車と言っても、ほぼ一日中混んでいるのが新快速らしい。
米原が近くなって車内が空いてくると、仕事をする人より遊びに行く人が目立つようになった。定番のピースサインで応えてくれたのは、彦根に遊びに行く中学生。
ほとんど座席に座りっぱなしで、16時24分、米原駅に到着。ずっと楽しみにしていた立ち食い蕎麦に直行。天ぷらそばを一杯いただく。
国鉄時代からの伝統通り、このそば屋は弁当も扱っている。米原の駅弁は知る人ぞ知る名店。ひとつひとつの味付けが実に繊細なのだ。
そしてこの駅で究極のシンプル弁当「おかかごはん」と久しぶりの再会を果たした! じつは米原に来るたび尋ねるのだけれど「最近は姿を見ないねー」などと言われて、心の中ではマボロシの弁当になりつつあったのだ。
おかずの味付けも絶妙だけど、メインはやっぱりおかかの載ったご飯。お弁当だから当然ご飯は冷めている。でも、おかかの香りと味が御飯に染みてまさに絶品。豪華、贅沢、にぎやかな駅弁が多い昨今、シンプル、地味、しみじみ という表現が似合う駅弁である。
車内で飲むお水を買いにキオスクへ。ボクの前には高校生。メロンパンをしっかり捧げ持って並んでえる。学校帰りはやっぱりお腹がすくのだ。
関が原付近を走る。下り電車が高速でやってきて、一瞬ですれ違った。
17:33、大垣駅着。ここで乗務員が交代。ホームに響き渡るほどの大きな声で交代のあいさつを交わす。軍隊式(?)の点呼はなかなかの迫力。乗車しかけた乗客が、後ろで「ひっ」と小さく声を上げた。
稲沢駅周辺を通過。車窓には愛知機関区が垣間見えた。前身の稲沢機関区時代から東海道の貨物輸送を支えている同機関区は、現在も60両を越える国鉄型機関車が集う一大基地だ。
運転席から、信号確認の大声が聞こえる。大きくまっすぐ手を上げ、大声で信号を確認する。運転士のペットボトルが言っとき話題に上げられたが、あれだけ声を上げるなら、適宜水を飲まなきゃ体か壊れてしまいそうだ。
もうすぐ名古屋に到着だ。
18:07、名古屋に到着。本日の乗車予定はここまで!
出発地点の枕崎駅から約1500キロ。3日でほぼ半分近くの距離を稼いだことになる。尻が痛くなるほど座る乗車修行だったが、クロスシートの座席のおかげでけっこう快適。
そろそろ乗り継ぎ旅にも慣れてきた。
旅路の半分達成を記念して、今宵は名古屋メシを楽しもう。味噌カツにするか、手羽先か。それにしても、乗ってるだけなのに、良く腹が減るもんだと感心する。
ちなみに途中で赤穂線を回ったおかげで、本日の走行距離は予定より若干短い546.8kmであった。
東シナ海、有明海、玄界灘、瀬戸内海と太平洋寄りに進んできたルートも、ここ名古屋で一区切り。明日からは「すべて山の中」に入る。
文・写真/川井聡
昭和34年、大阪府生まれ。鉄道カメラマン。鉄道はただ「撮る」ものではなく「乗って撮る」ものであると、人との出会いや旅をテーマにした作品を発表している。著書に『汽車旅』シリーズ(昭文社など)ほか多数。
【実録「青春18きっぷ」で行ける日本縦断列車旅】
※ 1日目《枕崎駅~熊本駅》
※ 2日目《熊本駅~宮島口駅》
※ 3日目《宮島口駅~名古屋駅》
※ 4日目《名古屋駅〜戸狩野沢駅》
※ 5日目《戸狩野沢温泉駅~只見駅》
※ 6日目《只見駅~鶴岡駅》
※ 7日目《鶴岡駅~ウェスパ椿山駅》
※8日目《ウェスパ椿山駅~函館駅》
※9日目《函館駅~旭川駅》