九州と同じほどの面積で、東シナ海の南に位置する台湾は、大きな魅力を秘めた旅先だ。特に開府400年に沸く台南に注目。多様な文化を探訪する旅に出かけたい。
世界5大ウイスキーといえば、スコッチ、アイリッシュ、アメリカン、カナディアン、そしてジャパニーズだが、これに続く第6のウイスキーが台湾ウイスキーといわれている。ウイスキー評論家の土屋守さん(69歳)は台湾でのウイスキー造りを次のように話す。
「台湾では酒とたばこは国営の専売局が担っていましたが、2002年に民間に解禁され、ウイスキー造りが始まりました。現在、台湾ウイスキーを牽引しているのが、ミネラルウォーターや缶コーヒーなどを販売する大手飲料会社・金車が設立したカバラン蒸留所です。2005年に設立し、2008年に『カバラン』の名を冠した台湾初のシングルモルトを発売。この新しいウイスキーを飲んだ著名なウイスキー評論家のチャールズ・マクリーンさんが、イギリスで開催された銘柄を伏せて審査するブラインド・テイスティング大会にカバランをこっそり加えました。するとカバランがスコッチなどを抑え圧勝したのです。このことがカバランを一躍、有名にしました」
カバラン蒸留所は台湾北東部、宜蘭県の蘭陽平野に位置する。背後に3000m級の山々が連なる雪山山脈が聳える穀倉地帯で、太平洋からは海風が流れる。ウイスキーは仕込み水も大切だが、蒸留の過程で必要な冷却水を充分に確保できるかどうかが重要と土屋さんは説く。じつはこの蒸留所の地下には雪山山脈からの豊富な伏流水が流れ、亜熱帯にもかかわらず、年間平均水温16℃という理想的な冷却水を確保することができる。
「蒸留機器の設計や選定、蒸留方法などに関わったのがウイスキー専門の相談役、故ジム・スワン博士です。彼がウイスキー造りの王道を台湾に持ち込みました。設立当初は4基だったポットスチル(蒸留器)は現在20基。莫大な資金を投じ、年間900万Lのモルトウイスキーを生産しています」
カバラン蒸留所
住所:宜蘭県員山郷員山路二段326号
電話:03・9229000
営業時間:平日9時~18時、土休日9時~19時(旧暦大晦日~17時)
定休日:なし
料金:無料
交通アクセス:台鉄宜蘭駅から車で約20分
南国らしい果実の香り
カバランウイスキーは温暖湿潤な気候のなかで熟成されるため、冷涼なスコットランドの3~4倍の速さで熟成が進む。コンピュータ制御により、短期間でも長熟のウイスキーに負けない旨さを引き出し、数々の国際大会で受賞を重ねている。その特徴はマンゴーやパイナップルのような南国の果実の香り、伏流水のやわらかな口あたり、そして熟成樽の違いによる様々な味わいにある。
蒸留所では製造工程や熟成庫、試飲などの見学コースを設け、予約すれば日本語でのガイドにも対応する。また台北市内にはカバラン直営のバーのほかショップもあり、気軽に商品を購入できる。
カバラン ウイスキー バー
住所:台北市南京東路二段1号2階
電話:02・25210880
営業時間:19時~24時(金曜は~翌1時、土曜は18時~翌1時、日曜は18時~24時)
定休日:無休
交通アクセス:MRT南京松江駅から徒歩約6分
多彩な樽で後熟する国営企業によるウイスキー
南投蒸留所
カバランに続く台湾第2の蒸留所が台湾中部にある南投蒸留所だ。「オマー」の銘柄で、ワイン樽やリキュール樽などで風味付けの後熟(フィニッシュ)をするのが特徴。カバランとは異なる方向性で注目を集める。業界の常識を覆す南国生まれの魅力的なウイスキーは、さらなる進化を遂げるだろう。
解説 土屋守さん(ウイスキー文化研究所代表)
取材・文/関屋淳子 写真提供/ウイスキー文化研究所
●1元(NT$)は約5.2円(両替時・11月20日現在)
※この記事は『サライ』本誌2024年1月号より転載しました。
【完全保存版 別冊付録】台湾の古都「台南」を旅する