東海道新幹線開業告知(1964年)
首都圏と関西を結ぶ鉄道の大動脈、東海道新幹線が開業して60年、この間の利用者は70億人に上るという。2023年のデータによると、東京~新大阪間を行き交う1日の列車本数は372本(※『JR東海 新幹線・在来線メディア総合案内』(2024年度版)より。)、新幹線はいつでも乗れる交通インフラとして定着した。
今や日常生活に欠かせない存在の東海道新幹線であるが、ここではポスターでその時代背景と果たした役割を振り返ってみたい。
1964年の開業の告知ポスターには、東京~新大阪間が「ひかり号」で4時間、「こだま号」で5時間とある。それまでは東海道本線の特急で最短6時間30分を要したので、まさに「夢の超特急」の誕生を告げていた。
国鉄時代に「ディスカバー・ジャパン」(1970 ~72年)などのキャンペーンがたびたび行なわれたが、新幹線に特化したものではなかった。新幹線がキャンペーンの対象として大々的に登場するのは、1987年、国鉄の分割民営化時のことである。
きっかけは、1985年に放送された『シンデレラ・エクスプレス ── 48時間の恋人たち』というテレビ番組であった。日曜日の夜、東京駅の東海道新幹線のホームで新大阪行き最終の「ひかり」の前で別れを惜しむ恋人たちの姿を追ったドキュメンタリーだ。国鉄の民営化と同時にこの遠距離恋愛をモチーフとした、テレビCMが制作され一大キャンペーンが打たれた。JR東海とすれば国鉄のイメージを払拭し「東海道新幹線の会社」としてイメージアップを図りたいという思惑もあった。
1987年6月から開始された「シンデレラ・エクスプレス」のポスターには、ガラスの靴を掲げる若い女性が当時最新の100系とともに収まる(下)。
シンデレラ・エクスプレス(1987年)
ビジネスイメージの強かった新幹線を人と人をつなぐ「コミュニケーション・メディア」としてとらえた戦略は大成功し、「クリスマス・エクスプレス」に引き継がれる。主に「シンデレラ」がホームでの別れを、「クリスマス」ではイブの夜、離れて暮らす恋人たちの再会を描いた。
クリスマス・エクスプレス(2000年)
30年を超えるキャンペーン
1993年からは「そうだ 京都、行こう。」キャンペーンを開始、四季折々の京都の情景を美しい写真と印象的なコピーで見せてくれる(下2点)。同社広報担当者によると「1年以上前から、伝えたいテーマに応じて対象の寺社などと調整、時代に即して制作している」という。開始から30年を超えても、まだまだ尽きぬ京都の魅力を伝え続けてくれる、東海道新幹線を代表するキャンペーンに成長した。
JR東海では2023年2月から「会いにいこう」キャンペーンを展開している。同社広報担当者は「人と人との出会いを支えている東海道新幹線の役割は、昔も今も変わりません」と語る。
そうだ 京都、行こう。(1993年)
そうだ 京都、行こう。(2024年)
取材・文/宇野正樹 協力/JR東海