文・写真/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)
カンボジアといえば世界遺産のアンコールワット遺跡で有名ですよね? またクメールルージュによる大量虐殺の悲劇でも知られています。苦難の歴史を越え、観光以外のジャンルでも産業を成長させて行こうと、この国は頑張っています。その一つが魚の養殖です。
『カンボジアフレッシュファーム』社は日本の技術を使って育てた良質のティラピアを“カンボジア産”として国外輸出する養殖プロジェクトを進めてます。
同社の養殖所があるのはカンボジア中部カンダール州のトゥールバット村。敷地面積は4.5ヘクタール、東京ドームとほぼ同じ大きさです。ここで毎月5トンの魚を育てています。
「魚を収獲する時、追い込みを行うので人手が必要です。そのため、村の人々の助けは欠かせません。一緒に村おこしをする気持ちで協力し合っています」と同社の現地代表、久保田光広さんは言います。共同代表であるカンボジア人のチヤウ・スオスダイさんと一緒に同社を育てあげてきました。
久保田さんは、もともとカンボジアの建築に欠かせないレンガ作りに携わっていたのですが、魚の養殖に興味を持ち『カンボジアフレッシュファーム』を2016年にスタートさせました。そこで目をつけたのがティラピアです。カワスズメ科に属し、アフリカや中近東が原産地。川魚ですが臭みがなく味が良いことで評判です。
「実はカンボジアではナマズが主に食べられていて、ティラピアの評価はあまり高くありません。しかし、世界各国に需要があり輸出品として最適な魚なのです」
ティラピアの養殖を開始した頃、JICA(国際協力機構)カンボジア支局の中小企業海外進出支援プロジェクトの一環として日本製ラピッドフリーザーを試験的に使ってみました。すると、急速に冷凍することで味を損ねずおいしいティラピアができました。これなら海外への輸出も可能だ! そこで、この冷凍機を養殖所へ本格的に導入しました。しかし……。
「この機械には380ボルトという大きな電力が要ります。首都プノンペン郊外の工業団地なら別ですが、田舎なので電気工事が大幅に遅れ、当初は大きな発電機を設置して稼働するしかありませんでした」
また田舎なので停電は日常茶飯事。1週間に1度は起きます。5分で電気が戻ることもあれば、そのまま半日以上停まったままということも度々……。
「いつ停電が起こるか分からないので24時間体制で監視をしています。保冷剤を常に大量に確保し、発電機の用意もいつも万端にしています(笑)」
また食用として欠かせない衛生意識。これがカンボジアでは広まっていません。
「基本中の基本である手をちゃんと洗うことを覚えてもらい、その洗い方も一から教えました。魚を衛生的に扱う際の心得などを何度も繰り返し指導しました」
苦労して育てたティラピア、久保田さんたちはそれを『南国鯛』と名付けました。
「南国カンボジアの人々と日本が協力して育てた大切なティラピアです。養殖業を通して、村作り、ひいては国づくりに貢献したいという私たちの想いがこもった命名です」
努力の甲斐あり、『南国鯛』はイオンモールのプノンペン支店で販売されたり、高級レストランのシェフの間で味が評判になって食材として使われています。また、日本など世界各地への輸出も近い内に実現しそうだということです。
「加工した後の骨はふりかけにしています。栄養価が高く安価なのでカンボジアの栄養改善に寄与できると考えています。また骨や皮を加工して飼料として販売もしています」
サステナブルであり、カンボジアの雇用を増やし、食を通じて人々の健康向上ができるという一挙三徳の事業だと久保田さんは胸を張ります。
「それも村の人々との相互の協力があってこそです。先日も、加工場で働いてくれているお母さんから“娘が学校卒業するから一緒に働かせて”と頼まれました。頑張らないといけないですね(笑)」
カンボジアのティラピアが日本の食卓で人気になる日も近いかもしれません。
南国鯛紹介ページ:https://www.nangokudai.com/
カンボジアフレッシュファーム・フェイスブックページ:https://www.facebook.com/CFF2016/
文・写真/梅本昌男
(タイ・バンコク在住ライター)。タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、グルメ、エンタテインメントまで幅広く網羅する。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。