文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

オレゴン州北部アストリア付近の海岸

北米大陸の東西両端に同じ地名を持つ都市がふたつある。ひとつは大西洋側にあるメイン州ポートランド、もうひとつは太平洋側のオレゴン州ポートランドだ。どちらもそれぞれの州で最大の都市ではあるが、規模はそれほど大きくない。人口約60万人の中核都市である。メイン州の方はボストン、オレゴン州のほうはシアトルと、さほど離れていない場所にやや大きな都市があることでも共通している。

しかし、それ以外では両ポートランドにはむしろ異なることのほうが多い。ポート(港町)の名に相応しいのはメイン州ポートランドだけだ。オレゴン州ポートランドは確かに北米大陸の全体地図で見るとかなり西の端に位置しているが、実は太平洋の海岸線から100km以上は内陸に入っている。当然、海に面した港はない。市内を大きな川が流れ、水運が良いことが発展の原動力ではあったが、それだけで港町と呼ぶには無理がある。例えて言えば、岐阜市は市内に長良川が流れて、伊勢湾からもさほど遠くないが、これを港町とは呼ばないだろう。

それではなぜオレゴン州ポートランドという地名が生まれたかについては面白い話がある。19世紀中頃、オレゴン・トレイルと呼ばれた陸路で東海岸から西海岸へやってきた2人の開拓者がいた。ひとりはメイン州ポートランド出身のフランシス・W・ペティグローブ、もうひとりはマサチューセッツ州ボストン出身のアサ・ラブジョイだ。ウィラメット川流域に広がる土地の共同権利を手に入れた2人は、投げた硬貨の表裏を賭ける、いわゆるコイントスでどちらかの故郷の地名をこの地につけることにした。その賭けにペティグローブが勝ったため、オレゴン州ポートランドが誕生した。ひょっとしたら、この土地にはオレゴン州ボストンという都市があったかもしれないのだ。

都市部から数時間で訪れることができる大自然の宝庫

オレゴン中央駅(Union Station)

現在のオレゴン州ポートランドは一般的には環境が良く住みやすい都市のイメージがあるが、それでも米国の多くの都市と同じような問題を抱えている。ダウンタウンの交通は慢性的に渋滞し、ホームレスが増加し、治安も悪化している。2022年7月末をもって、スターバックスは「安全上の懸念」から、ポートランド市内にあった2店舗を閉鎖したほどだ。ナイキの本社があることがよく知られているが、それはずっと郊外にある。

しかし、ダウンタウンを離れ、太平洋へ向かって車を走らせると、たちまち風景は大自然のそれに一変する。太平洋に向かって、深い森と川に囲まれた山岳地帯を貫く国道を2、3時間ドライブすると、コロンビア川の河口にあるアストリアに到着する。

村上春樹が全作品を翻訳したことでも知られる作家のレイモンド・カーヴァー氏(1938 ~ 1988)はポートランドとアストリアの中間にあるクラッツカニーという小さな町で生まれた。現在は町の一角に氏の肖像を描いた壁画を見ることができる。

オレゴン州クラッツカニー

アメリカ映画のファンなら、アストリアという地名を覚えているかもしれない。1985年公開の冒険映画『グーニーズ』で少年たちが海賊伝説の財宝を探したのがアストリア付近の海岸である。また、1990年公開のコメディ映画『キンダガートン・コップ』で アーノルド・シュワルツェネッガー演じる主役刑事が代用教師に化け潜入捜査をしたのがアストリア小学校だ。

『グーニーズ』と『キンダガートン・コップ』の舞台になったことを説明する案内板

どちらの映画でも見たことがあれば、アストリアの雰囲気は想像しやすいはずだ。あの通り、小さく静かな町である。人口は1万人ほど。町の中心となるピア周辺にはレストランが並んでいるが、その殆どは夜の8時には店を閉めてしまう。火曜日から木曜日まで閉店する店も多い。

『グーニーズ』の少年たちが集まっていた住宅

アストリアからカリフォルニアとの州境まで続く海岸線はオレゴン・コーストと呼ばれている。広い砂浜と巨大な奇岩が作る景観で知られ、観光地として紹介されることもある。しかし、華やかなリゾート地を想像すると当てが外れるかもしれない。海岸に沿っていくつかの町はあるが、どれもアストリアと同じ程度かそれ以下の規模しかないからだ。人影まばらな、という表現がぴったりくる場所が多く、そうした雰囲気を好む人には良い土地だ。

アストリア近くのホテルから眺めるオレゴン・コーストの海岸

オレゴン・コーストはのんびりとした旅行に似合う。日本との直行便も多いシアトルからもそれほど遠くない。レンタカーを借りてドライブするのが便利だが、公共交通機関を使っての旅行も可能だ。シアトルからポートランドまで鉄道で2~3時間、ポートランドからはバスに乗ると、アストリアまではさらに2~3時間で着く。

「アストリア観光センター」(Astoria Warrenton Chamber of Commerce)
住所:111 West Marine Drive
P.O. Box 176
Astoria, Oregon 97103-0176
電話:(503) 325-6311
公式ホームページ: https://www.travelastoria.com/about/visitor-center.html

文・角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。

 

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