自分用のワンルームマンションを購入していた妻。熟年離婚は穏やかに進んでいった
結婚は27歳のときに、大学の後輩の女性とした。しかし、55歳のときに離婚する。
「口が悪い友達からは、『役職定年になってお役御免か』とか『金の切れ目が縁の切れ目』などと言われているけれど、実際はそうじゃない。妻は一人になりたかったんだ」
光伸さんには、有名商社に勤務する息子が一人おり、25歳で授かり婚をして、両家は名門ホテルで食事会をした。嫁となる女性は、聡明なキャリア女性だという。
「相手の両親も立派な人で、親としてホッとしたんだよね。その後、杉並の自宅マンションに戻って、ビールを飲んでいたら、『お父さん、私、一人になりたいの』と離婚届を出してきた。すでに妻は何年も前から準備しており、都心にワンルームマンションを買って、そこで一人で気ままに過ごすつもりだと。彼女は責任感が強い。私がいると、食事の支度や家事のことなどが気になってのんびりできないんだって。『見えない足かせを外して』と言われて、悲しくなったけれど、仕方ないよね」
1週間ほど話し合いを重ねて、妻の意思が揺るぎないことを知り、離婚に同意する。
「離婚して2年くらいは、向こうから連絡がきて、妻のマンションに遊びに行っていたよ。離婚後、離れて暮らし、妻じゃなくなった女性が、自分のために魚を焼いてくれたり、味噌汁を作ってくれたりする。これがとても新鮮で、年甲斐もなく燃えてしまったことをよく覚えているよ。3年前に故郷に帰ってからも、今でも連絡を取っているし、今日みたいに東京に来たときは、彼女の家に泊まる。長男夫婦には離婚を伝えたけれど、お嫁さんの実家と2人の孫には伝えていない。離婚にはネガティブなイメージが付きまとうから、言わないことは言わなくていいんだと思う」
【アウトドアガイドになって、女性たちとの出会いが激増。人生がばら色に輝きだす……~その2~に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。