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知っておきたい洋服生地の基礎知識【銀座 老舗仕立て屋の着こなし講座10】

手前1のストライプの生地がスーパー160's、後ろの生地がスーパー180’sで、ともに高級、かつ繊細なもの。

手前のストライプの生地がスーパー160’s、後ろの生地がスーパー180’sで、ともに高級、かつ繊細なもの。

前回は夏のジャケット用の生地についてお話ししましたが、今回は、一般的な服地の商品説明でやたらと目にするようになった“スーパー000’s”という表示についてご説明いたします。

最近では既製服のスーツのタグなどにも、使用している生地の説明としてスーパー100’s、スーパー120’sなどと表示されていることが多くなりました。店頭でも、高品質な服地としておすすめしていることも多いでしょうから、この数字が大きければ大きいほど、高品質な服地になるという先入観を持ち、素材の良し悪しを判断していらっしゃる方も多いのではないかと思います。

その判断が必ずしも間違いだとは申しませんが、洋服を誂えたり既製服を購入されたりするときに、スーパー表示だけを購入の判断基準になさるのは、決して賢い購入方法とは言えません。そこで、スーパー表示とはいったいどういうもので、どうとらえるべきなのか、あらためて考えてみたいと思います。

スーパー値が高くなるほど、使われている原毛が細く、軽くなる

スーパー表示とは、羊から採れた「高品質」な羊毛の太さを世界基準で統一して標記するための単位です。中級品以下の原毛ではスーパー表示はされないので、この表示があることがすなわち、高品質な原毛を使用しているということになります。

数字について具体的に申しますと、原毛1本の太さが18.5ミクロンのものがスーパー100’s、さらに0.5ミクロン細くなるごとにスーパー表示が10ずつ大きくなり、スーパー160’sで15.5ミクロンになります。極めて単純に申し上げると、スーパー値が大きければ多きいほど、原毛は細く軽くなり、したがって、その糸で作られた生地は軽くなるということになります。

スーパー表示が使われだしたのは(正確に記憶はしていませんが)、かれこれ40年ほど前、1970年代からではないかと思います。そのころはそんなに細い原毛が採れる羊もいなかったのですが、羊の品種改良が進み、現在では最も細いものでスーパー240’sという羊毛が採取されています。

右側はメリノ種の羊の原毛、すなわちメリノウール。左がカシミアの原毛。 なお、スーパー値は羊の原毛の単位なので、カシミアの原毛では表示されない。

右側はメリノ種の羊の原毛、すなわちメリノウール。左がカシミアの原毛。
なお、スーパー値は羊の原毛の単位なので、カシミアの原毛では表示されない。

スーパー値が高い生地は手入れがたいへん

さて、これからが本題です。洋服を選ぶにあたって、どのような素材=服地の服を選択するのが良いのでしょうか。単純にスーパー値が高い服地でできている洋服ならば、いい洋服だと考えてしまっていいのか、という問題です。

答えは○であり、×でもあります。それはなぜでしょうか?

○か×かは、洋服に何を求めているかということによって、変わってきます。洋服に求めるものが、軽さなのか、肌触りの良さなのか、あるいは服地の光沢や発色なのか。はたまた堅牢度、皺になりにくさ、手入れの簡単さなのか。何を追及するかによって、服地の選択は全く変わってきます。

またまた極めて簡単にご説明すると、スーパー値が大きくなるにしたがって、生地が軽くなるうえに、肌触りが良くなる、光沢・発色が良くなります。しかし、糸が細くデリケートになる分、堅牢度は落ちるので、丁寧に着なくてはならなくなります。皺にもなりやすいので、こまめなお手入れが必要です。

また、湿気に極端に弱いのも、スーパー値が高い服地の特徴です。湿気の多い梅雨の時期であれば、生地が湿気を吸収して伸びたり膨らんだりして、ブクブクになることもあります。これはアイロンを掛けるとビシッと戻るものですが、やはり手間はかかります。

一方、スーパー値が小さくなるにしたがって、(スーパー値が高いものと比較すると)一般的に服地そのものが厚く重くなる傾向がある。肌触りが悪くなる。光沢・発色も悪くなる。けれども逆に、しわになりにくく、ある程度のハードユースに耐えられる、ということになります。

例えていうならば、野に咲く野草の花は、自然環境に強いので特段のケアをしなくても毎年花を咲かせてくれますが、温室育ちの特殊な花は、特別なケアをしているときはすばらしく美しいけれど、ちょっと手入れを怠るとすぐに枯れてしまう、というのに似ているかもしれません。

以上のようなことを考えると、いたずらにスーパー値が高い服地をセールスポイントにすることは間違いだと言えましょう。スーパー150’sにもなると、デリケートで取り扱いがむずかしい超高級服地になります。そのような生地で作られたスーツが満員電車での通勤に耐えられるとは思いませんし、一日中、椅子に座って仕事をしてシワにならないはずがありません。一般的なビジネスユースに向いている服地とは言えないのです。そして、このコラムの主題である週末の装いにも不向きといえましょう。

手前がスーパー120’sの生地、後ろがスーパー100’sの生地。パッと見ただけでは、スーパー160’sの生地と、発色の違いなどはわからないと思います。

手前がスーパー120’sの生地、後ろがスーパー100’sの生地。パッと見ただけでは、スーパー160’sの生地と、発色の違いなどはわからないと思います。

スーパー100’s~120’sの服地でも十分に高品質であり、肌触りにしても、光沢・発色性にしても決して悪いものではありません。それでいて、ある程度の堅牢度も兼ね備えていますから、普段使いのスーツやジャケットを選ぶのであれば、十分以上のクオリティーがあると思います。

くれぐれも、洋服購入の際に、スーパー値だけにとらわれないことをおすすめいたします。

文/高橋 純(髙橋洋服店4代目店主)
1949年、東京・銀座生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本洋服専門学校を経て、1976年、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションのビスポーク・テーラリングコースを日本人として初めて卒業する。『髙橋洋服店』は明治20年代に創業した、銀座で最も古い注文紳士服店。

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