2017年12月末時点の成年後見制度利用者数は、合計で約21万人となっており、年々増加しています。とはいえ、そのしくみや手続きについて、よくわからないという声が聞かれるのも事実。制度が広く浸透するには、まだ時間がかかるようです。
成年後見制度のしくみ
認知症などによって、物事を判断する能力が十分でなくなってくると、資産の管理や不動産の売買、介護施設などに入居するための契約などを、自分で行えなくなるかもしれません。また、正しく判断できないために、だまされたり、不利な条件で契約を結んでしまったりするおそれがあります。
こうした事態に備えるため、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人などが、判断能力の不十分な人をサポートする制度が、「成年後見制度」です。
制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があり、法定後見制度は、支援される人の判断能力の程度によって、さらに「後見」、「保佐」、「補助」の3つに分かれています(詳しくは下図参照)。
(C)2018 NPO法人 日本FP協会
法定後見制度で支援を行う人は、「成年後見人等」と呼ばれ、本人のためにどのような支援が必要かを家庭裁判所が吟味したうえで選ばれます。本人の親族が選ばれることもありますが、一般的には法律や福祉の専門家、福祉関係の公益法人が選任されています。
成年後見人等は、本人に代わって契約をしたり、場合によっては契約を取り消したりするなど、非常に大きな権限を持ちます。そのため万がーにも、その立場を悪用しないよう、成年後見人等は、その事務などについて家庭裁判所に報告し、監督を受ける決まりになっています。
なお、もうーつの成年後見制度である任意後見制度は、将来判断能力が衰えて支援が必要になったときに備えて、意識のはっきりしているうちに、自ら後見人を定めるものです。公証人の作成する公正証書で契約を結ぶことで成立します。
制度を利用するには?
法定後見制度を利用する際は、まず本人の住まいのある近くの家庭裁判所に、後見開始の審判の申し立てを行います。
申し立てをすると、鑑定手続きや本人への陳述聴取、成年後見人等の適性調査が行われます。どんな手続きが必要かは、ケースバイケースなのですが、法定後見の開始までには、3~4カ月程度の期間がかかるのが一般的です。
費用の面では、申し立てに関する費用のほか、後見人への報酬、事務にかかる実費が必要になります。このうち後見人への報酬は、家族ではなく、第三者に成年後見人等になってもらった場合に必要で、家庭裁判所が決定した額を毎月払っていくことになるため、負担が大きくなることも考えられます。
金額は財産状況に応じて異なりますが、目安としては、月額3万円程度となる場合が多いようです。
(C)2018 NPO法人 日本FP協会
【事例でみる成年後見制度】
Aさんの状況 アルツハイマー病
申立人 妻
成年後見人 申立人
Aさんは5年ほど前から物忘れがひどくなり、駅から自宅への帰り道がわからなくなるなど、ー人で外出をすることができなくなりました。その症状は重くなる一方で、家のなかでも家族の判別がつかないほどです。回復の見込みもないため、2年前から入院しています。
ある日、Aさんの弟が突然事故で亡くなり、Aさんが弟の財産を相続することになりました。ところが弟には負債しか残されておらず、困ったAさんの妻が相続放棄のために、後見開始の審判を申し立てました。
家庭裁判所の審理を経て、Aさんについて後見が開始され、夫の財産管理や身上監護をこれまで事実上担ってきた妻が成年後見人に選任されました。そして妻は相続放棄の手続きをしました。
【解説】
本来、相続放棄の手続きは、相続発生から3カ月以内に本人が行わなければならず、もし申し出なければ、負債も含めて相続することになる。このケースでは成年後見制度を利用することによって、期限内に相続放棄の手続きを行い、Aさんに債務返済の義務が生じる事態を回避できた。
※事例は法務省ホームベージ『成年後見制度~成年後見登記制度~」より再構成
※本記事はNPO法人 日本FP協会発行のハンドブック「自分らしく暮らすために 60代から始めるマネー&ライフプラン」から転載したものです。
協力:NPO法人 日本FP協会 https://www.jafp.or.jp/