取材・文/渡辺陽
猫を飼ってみたいけれど、一匹だけで飼うほうがいいのか、二匹以上飼ったほうがいいのか、迷うことはありませんか。猫同士の相性はどうなのかとか、成猫になってから考えてもいいのかとか、いろんな疑問があると思います。猫の多頭飼いについて知っておきたいことを、動物行動学がご専門で、もみの木動物病院副院長の村田香織先生(以下、村田)に伺いました。
■子猫のうちから一緒に飼うほうがいい?
―――猫を多頭飼いするのに、理想的なタイミングはあるのでしょうか。
村田 「猫を飼う時、一匹だけ飼うべきか、最初から二匹飼おうか、迷うところですよね。二匹も世話をできるだろうかとか、一匹では寂しくないだろうかとか、いろいろ考えてしまうこともあるでしょう。じつは、猫を多頭飼いするなら、子猫のうちから飼うほうがいいんです。猫は、『他の猫と出会った時期が重要』で、生後2か月までの子猫なら、柔軟性があるので、比較的スムーズに仲良くなれます。しかし、成長すればするほど相手を受け入れがたくなり、多頭飼いするのは難しくなるのです。特に、産まれてからずっと他の猫と関わらないで成猫になった場合、他の猫と一緒に暮らすのは非常に難しく、ストレスになることがあります」
■血がつながっているメス猫同士は、相性がいい
―――子猫は子猫でも、仲良くなりやすい組み合わせはあるのでしょうか?
村田 「ペットの猫であるイエネコはヤマネコと共通の祖先を持つ動物です。イエネコは、家畜化されているのでヤマネコよりも他の猫に対して寛容ですが、多頭飼いの理想的な組み合わせを考える場合、ヤマネコの生態、縄張りが参考になります」
―――ヤマネコはどんなふうに縄張りを形成するのですか。
村田 「ヤマネコは縄張りを持っていて、繁殖活動をする時期や子育てをする時期以外は単独行動をして、群れをなしません。雄は広い縄張りを持ち、その中に雌の縄張りがいくつかあります。雄が雌を囲い込むような形になっているのです。雄は自分の縄張りをくまなくパトロールし、他の雄の侵入を阻止し、発情期の雌と交尾して子孫を増やします。雌は、安全な場所を選んで子猫を育てますが、やがて子猫が成長すると、雄の子は母猫の縄張りを出ていきます。しかし、雌の子は、母猫の縄張りの一部に住み着いて、その外側に自分の縄張りを持つようになるのです」
―――雌と雄では、縄張りの作り方が違うのですね。
村田 「雌の子猫は母親や姉妹と縄張りの位置が近く、雄猫は独自の縄張りを持って巣立っていく。そう考えると、子猫を一緒に飼う場合、姉妹が、最も問題の少ない組み合わせと言えるでしょう。逆に、血が繋がっていない雄猫同士は将来トラブルにつながる可能性もあります」
■環境を整えることも重要
―――多頭飼いする場合、他に気をつけることはありますか
村田 「猫にとって快適な生活環境を整えてあげることも大切です。犬と違って散歩はしませんが、もともとは狩りに出る動物なので、活発に動きたい欲求があるのです。おもちゃなどで、十分遊んで満足させてあげましょう。子猫の時から一緒に飼うと、猫同士一緒に遊ぶので、運動不足も解消できますし、フラストレーションがたまりにくくなります。飼い主への攻撃行動など問題行動も起こりにくくなるのもメリットです。多頭飼いするなら、2か月齢までの子猫のうちから飼育するのがおすすめです。この場合でもしっかりおもちゃで遊んであげることは大切で、刺激不足になりフラストレーションが溜まるとケンカをし始めることもあります」
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猫を多頭飼いすると、運動不足解消や、お留守番中の寂しさを和らげるのにも良さそうです。できるだけ、子猫のうちから多頭飼いしたほうがいいことも分かりました。ただ、子猫は同じように年を取り、シニアになります。シニアになった時、2匹の猫が同時に病気になることもあるでしょう。医療費や介護費用など、経済的なことや飼い主さんの体力についても考えて飼いたいですね。
指導/村田香織先生
獣医師、もみの木動物病院(神戸市)副院長。イン・クローバー代表取締役。日本動物病院協会(JAHA)の「こいぬこねこ教育アドバイザー養成講座」メイン講師。「犬の幼稚園」や「パピークラス」などを主催、人とペットが幸せに暮らすための獣医学と動物行動学に基づいた知識を広めている。著書「こころのワクチン」など。
取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。小学館サライ.jp、文春オンライン、朝日新聞社telling、Sippo、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。