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暮らし

朗読:伝えたい思いを乗せて語ることの魅力(進藤晶子の暮らし・家計コラム 第6回)

夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。火曜日は「暮らし・家計」をテーマに、進藤晶子さんが執筆します。

文/進藤晶子

ナレーション・インタビューの達人、山根基世さん。働く女性の先輩としても、私の憧れの存在です。

私がアナウンサーになったきっかけは、大学生の時に偶然聴いた、当時NHKアナウンサーの山根基世(やまね・もとよ)さんのナレーションでした。最近も放送されたNHKのテレビ番組『人体』の一番初めのシリーズ(1989年放送)だったのですが、山根さんの声を聴いていたら、突然ワーッと涙があふれ出てきて……、これは自分でも驚きの体験でした。

声の力ってすごい! “語り”の力って何だろう?? と。

アナウンサーになって20年以上経った今も“語り”の不思議な魅力に取りつかれています。

3年前、山根さんから「『朗読指導者養成講座』を立ち上げるので、進藤さん、参加しない?」と声をかけていただきました。NHKとTBS、局の垣根を越えて、まさか直接教えを請う機会に恵まれるとは‼ と、嬉々として月に1度、山根さんの“語り”の極意に触れ、学ばせていただきました。

普段話しているように読む、それが難しい

みなさんが「うまいなあ」と思われるのは、どんな朗読ですか?
山根さんの講座では「私たちが目指す朗読。それは、白いご飯を上手に炊けるように」が合言葉です。白いご飯を美味しく炊ければ、あとはチャーハンにしても、親子丼にしても、卵がけごはんにでも、なんでもアレンジが効く。つまり、普段話しているように読む、クセのない読み方ということ。でも、実はこれがいちばん難しいんです。

朗読の魅力をひとことで言うのは難しいですが、私は少し落語に似ているように思っています。聴く人が、その人のイメージで自由に物語を膨らませることができる。

物語の中に入り込み、主人公になりきる人。今、自分が置かれた状況に照らし合わせながら耳を傾ける人。または、かつて誰かに読んでもらった時のことを思い出し、追体験しながら聴く人。と、半分は聴く人に委ねながら、一緒に世界を作り上げられるのが朗読のおもしろさだと思います。

ところが読み方にクセがあると、聴き手は一気に現実に引き戻されてしまう。「あ、今、変なアクセントだった!」とか、「ちょっと言葉が聞き取れなかったなあ」となると、せっかく作り上げていた世界がパチンと弾けて消えてしまいますよね。

物語に入り込んでもらうためには、内容や作者の意図を理解していなければなりません。たった一行の文章でも、トンチンカンなところで区切って読んでしまうと意味が伝わらない。キチンと理解し、意味のまとまりで切って、読む。

先日、ある朗読会で、角田光代さんの短編集『Presents』の中の『絵』という物語を読みました。思春期の我が子の成長を通して、母親が「本当の家族の幸せ」を模索するお話です。今、同じような立場にいる私としては、とてもリアリティを感じた内容でした。終演後のお客様からのアンケートには、「子育てに没頭していた時期のことを懐かしく思い出した」など、うれしい感想をいただきました。

今年(2018年)1月28日、 伊藤忠エネクスが主催する社会貢献イベント「ことばの力を楽しむ会」 東京公演に山根基世さんと一緒に出演しました。このときに読んだのが角田光代さんの『絵』です。

伝えたい思いが、技術を越えた味わいになる

朗読指導者養成講座の受講生は、すでに様々な分野でキャリアを築いた人たちばかり。幼稚園や学校の先生、図書館司書、介護職に携わる人、大手商社をリタイアされた方や、書籍の編集者、中にはプロの手品師という方もいらっしゃいました。北海道や沖縄など、全国から通ってこられ、それぞれの地域を拠点に、読み語りなどのボランティア活動に関わっている方も多くいらっしゃいます。

その中に「子供からひ孫までの三世代を、絵本を読み聞かせながら育ててきました」という90歳を超えた女性がいらっしゃいました。この方の朗読が、抜群にうまい。滑舌やイントネーションなど、プロの視点から指摘をしようと思えばできるのでしょうが、そんな細かな技術を超えた“味わい”があるんです。語り出した途端にウワッと目の前に情景が現れる。きっと、「このメッセージを伝えたい」という思いを込めて、子供・孫・ひ孫に、繰り返し絵本を読み聞かせてこられたからなのでしょうね。

また「子供の頃から、人前に出るとうまく話せないことが悩みだった。それを克服したい」といって参加した女性が、1年後、100人を超える人の前で堂々と朗読発表をされるようになりました。

きっと「上手に話したい」という発想を転換するきっかけをつかまれたのでしょう。自分を良く見せたいという意識を捨てて、「この物語の本質を伝えたい」という思いに焦点を当てることができれば、その人だけの表現、味わいある朗読ができるのだと思います。

きっと、最も大切なのは「うまく読む」ことではなく、何を伝えたいか、伝えたいことに読み手が共感しているかどうか、なのだと思います。

その後、山根さんのアシスタントとして関わっていた朗読指導者養成講座もこの春にお役目を終え、現在、私は初めて自分で企画した朗読コンサートの準備に追われています。

サントリーホールという檜舞台で4月末、山根基世さんと詩人の工藤直子さんをゲストにお迎えして、講座の同窓生たちと共に開催します。どんな物語の世界をお客様に届けることができるのか。もう今からドキドキしています。

サントリーホールでの朗読会は、朗読指導者養成講座の修了生による自主運営の企画です。ありがたいことに、チケットは完売しました!

文/進藤晶子(しんどう・まさこ)
昭和46年、大阪府生まれ。フリーキャスター。元TBSアナウンサー。現在、経済情報番組『がっちりマンデー!!』(TBS系)などに出演中。

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