取材・文/池田充枝

日本画には、もともと流派がありました。古くは平安時代に成立した「やまと絵」があり、室町時代には中国画をもとにした「狩野派」が出て一世を風靡しました。それぞれ、独特な「筆ぐせ」がありました。

江戸時代中期には、京にいた円山応挙(まるやま・おうきょ)がリアルな表現を導入した写生表現を打ちたてて「円山四条派」の祖となり、さらに中国の明清時代の「文人画」ももたらされ、画譜などの出版メディアによって文人画風が流行しました。これらにも「筆ぐせ」がありました。

さらに明治以降の近代には、そうした伝統的な諸流派は「美術学校」という教育システムのなかで継承されながらも解体され、「個性」を重視した個別の描法が絵画表現の中心になります。そして近代の日本画家たちは、独自の「筆ぐせ」で個性的な作品を創り出していきました。

そんな画家たちの「筆ぐせ」を、住友家に伝わる近代日本画の名品のなかから紹介する展覧会絵描きの筆ぐせ、腕くらべ―住友コレクションの近代日本画》が京都の泉屋博古館で開かれています(~2018年7月8日まで)

本展の見どころを、泉屋博古館の分館長、野地耕一郎さんにうかがいました。

「近代の画家の中で、もっとも個性的なのが富岡鉄斎(とみおか・てっさい)です。《古柯頑石図》(こかがんせきず)の無頼な描き方は、まるで暴走族の落書きのよう。その自由さがセザンヌやフォービスム(野獣派)の粗放な描法とも重ねられて世界的に評価されました。

我儘な筆ぐせによる徹底した自由さが、結果的にモダニティーに通じてしまった希有な画家です。我儘とは「われのまま」なのだ、と77歳喜寿の鉄斎の筆が主張しているようです。

富岡鉄斎《古柯頑石図》明治45年(1912)泉屋博古館分館

それに対して理知的な筆ぐせを作ったのが竹内栖鳳(たけうち・せいほう)です。《禁城松翠》(きんじょうしょうすい)の松の木は、英国のターナーや仏蘭西のコローの筆法を、江戸時代京都で生まれた水墨技法でカスタマイズした描き方です。

竹内栖鳳《禁城松翠》昭和3年(1928)泉屋博古館分館

山口蓬春(やまぐち・ほうしゅん)描く《如月》(きさらぎ)の梅の枝は、江戸時代の琳派の墨のたらし込み技法で質感や立体感が表されていますが、画面の外に抜ける太い枝が細かくたち消えるのがこの頃の蓬春の筆ぐせ。これによってこの絵は早春の軽快な気分を手に入れています。

山口蓬春《如月》昭和14年(1939)泉屋博古館分館

国民的画家と言われた東山魁夷(ひがしやま・かいい)の《スオミ》は、もはや油彩画のような重厚な画面です。戦後の日本画に求められたのは、油彩画の絵肌にも負けない重厚さでしたから、魁夷の表現はそれに適うものでした。

描線主体の「描く」絵から「塗る」絵画への転換は、おのずと筆ぐせを抑制することになったのです。

東山魁夷《スオミ》昭和38年(1963)泉屋博古館分館

画家たちの筆ぐせが分かると、日本画は10倍楽しめますよ!」

画家たちの筆ぐせから近代日本画の課題を導き出す、一味違った面白い展覧会です。ぜひ会場でご鑑賞ください。

【開催要項】
《絵描きの筆ぐせ、腕くらべ―住友コレクションの近代日本画
会期:2018年5月26日(土)~7月8日(日)
会場:泉屋博古館
住所:京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24
電話番号:075・771・6411(代)
https://www.sen-oku.or.jp/kyoto/
開館時間:10時から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:月曜

取材・文/池田充枝

 

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