ありがたいことに、人生をいつでもやり直せる時代になりました。働き方も学び方も選択肢が増え、「第二のスタート」を切る人も珍しくありません。ただ一方で、情報が溢れすぎて、何を信じて選ぶかが難しくなったのも事実です。検索だけでなくAIでも答えが出るぶん、「自分の判断軸」が問われます。
そんなとき、時代を越えて残る言葉は、案外ぶれない指針になってくれます。流されず、焦らず、いまの自分に必要な一文を持つこと。それが、人生後半の足元を強くしてくれるかもしれません。
今回の座右の銘にしたい言葉は「一味同心」(いちみどうしん)です。

「一味同心」の意味
「一味同心」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「心を一つにして力を合わせること。また、その人々」とあります。「一味」というと、現代では「悪巧みをする一味」のように少しネガティブなニュアンスで使われることもありますが、本来は非常に美しく、前向きな意味を持っています。
同じ目標に向かって集まった仲間たちが、互いの立場や違いを乗り越えて、まるで一つの味になるかのように深く結びつく。そんな強い連帯感や絆を表す言葉なのです。
50代からの人生では、仕事の第一線から少しずつ退き、地域活動や趣味のサークル、ボランティアなど、損得勘定のない新しいコミュニティに参加する機会が増えていきます。そこでは、年齢も肩書きも異なる人々が集まります。そのような場において、「みんなで心を一つにして楽しもう」「協力し合ってより良いものを作ろう」という「一味同心」の精神は、非常に重要であり、人間関係を円滑にする潤滑油となってくれます。

「一味同心」の由来
この言葉の由来は仏教の教えが深く関わっています。
まず「一味」という言葉ですが、これはもともと仏教用語です。仏様の教えは、どのような人が聞いても、最終的には皆を同じように悟りの境地(一つの味)へと導く、という「一味平等」の教えに由来しています。海の水がどこをすくっても同じ塩味がするように、仏の慈悲は誰に対しても平等であるという意味が込められています。
そして「同心」は、文字通り「心を同じくすること」です。
日本の歴史を紐解くと、室町時代から戦国時代にかけて、人々が共通の目的のために団結する「一揆」の際に、この「一味同心」という言葉がよく使われました。彼らは団結を誓う際、神仏に誓いを立て、神前に供えた水(神水)を回し飲みする「一味神水」(いちみしんすい)という儀式を行いました。同じ水を飲み、心を一つにして決起する。まさに命がけの強い絆の証だったのです。
時代は変わり、現代において命がけの誓いを立てることはありませんが、「互いを平等に尊重し、心を一つにする」という本質的な意味は、現代を生きる私たちの心にも深く響くものがあります。
「一味同心」を座右の銘としてスピーチするなら
「一味同心」を座右の銘としてスピーチするときは、上から目線で「心を一つに」と押し付けるのではなく、「自分自身がこれまで生きてきて、仲間の大切さに気づいた」「これからはこういう姿勢で皆さんと関わっていきたい」という、共感を呼ぶスタンスで語ることがポイントです。以下に「一味同心」を取り入れたスピーチの例をあげます。
仲間の大切さを語るスピーチ例
私の座右の銘は、「一味同心」という言葉です。同じ目的を持って、心を一つにするという意味の四字熟語です。
若い頃の私は、どちらかというと自分の力を過信し、一人で何でも解決しようと肩肘を張っていた時期がありました。仕事でも「自分が頑張らなければ」と抱え込み、結果として周りのメンバーとうまく連携できず、プロジェクトを停滞させてしまった苦い経験があります。その時、私の至らなさを責めることなく、一緒に解決策を考え、カバーしてくれたのが職場の仲間たちでした。
その経験から、人は決して一人では大きなことを成し遂げられないと痛感しました。互いの強みを持ち寄り、弱みを補い合いながら、一つの目標に向かっていく。その過程で生まれる絆こそが、何にも代えがたい財産なのだと気づいたのです。
「一味同心」の「一味」には、仏教の言葉で「どんな人も平等である」という意味があるそうです。これからの人生、役職や年齢といった肩書きを一旦横に置き、皆様とフラットな関係で、同じ目的を分かち合う仲間として歩んでいきたいと願っております。
最後に
「一味同心」は、ただの精神論ではなく、互いを尊重し合うという深い優しさを含んだ言葉です。人生の後半戦、私たちは多くのものを手放し、より身軽になっていきます。その時に最後に残るのは、損得抜きで笑い合える仲間との絆ではないでしょうか。
そのひとりひとりとの縁を、もう一度温め直してみるきっかけとして、「一味同心」という言葉を座右の銘に加えてみてはいかがでしょう。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com











