人の顔には、それぞれの人生が刻まれると申します。若さや美しさという面では、どう足掻いても年齢とともに輝きは失われ衰えるものです。しかし、年齢を重ねることによって得た経験や体験、修得した技能、そして鍛えられた精神が、その人の顔に滲み出てくるようになります。

まさに渋くて味わいのある“燻し銀の表情”ではないでしょうか? それは、若い人には無い魅力となります。そうした方々が口にする言葉も、また味わいのあるモノで心に深く浸透するものであります。そうした先人が残した一つの言葉をご紹介します。

今回の座右の銘にしたい言葉は「直情径行(ちょくじょうけいこう)」 です。

目次
「直情径行」の意味
「直情径行」の由来
「直情径行」を座右の銘としてスピーチするなら
最後に

「直情径行」の意味

「直情径行」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「自分の感情のままを言動に表すこと。また、そのさま。」とあります。「直情」は、心に浮かんだ感情や考えを飾らず、そのまま表す、あるいは素直に感じ取ることを意味します。「径行」は、「径」という細い道をまっすぐ行くことから、曲がりくねったり、回り道をしたりせずに、信じた道を率直に進むということを表しています。

つまり、「直情径行」とは、自分の気持ちや考えに正直に、遠回りせず率直に行動すること。思ったこと、感じたことを、そのまま素直に表現し、信じた道を迷わず歩み続ける生き方を指した言葉です。

「直情径行」の由来

「直情径行」の語源は、中国の古典『礼記(らいき)』の「檀弓(だんきゅう)・下」という章に見つけることができます。

「有直情而径行者、戎狄之道也」

【書き下し文】
直情(ちょくじょう)にして径行(けいこう)する者あるは、戎狄(じゅうてき)の道なり。

【現代語訳】
感情の赴くままに行動するのは野蛮な人間の生き方である。

この言葉は本来、感情のままに行動することを戒める言葉として使われていました。古代中国では、感情をコントロールし、礼儀や道徳に従って行動することが重視されていたためです。

しかし、時代が変わり、現代では「直情径行」は必ずしも否定的な意味だけで使われるわけではありません。むしろ、建前や偽善に満ちた社会の中で、自分の心に正直に生きることの大切さを表現する言葉として、肯定的に捉えられることも多くなっています。決して一時の気まぐれや感情任せの行動を指すのではなく、「ぶれずに筋を通し、誠実に生きる」精神を表すものとして、現代の私たちにも親しまれています。

「直情径行」を座右の銘としてスピーチするなら

「直情径行」を座右の銘としてスピーチするときに大切なのは「直情径行」を「わがまま」や「自己主張の強さ」と捉えられないよう配慮することです。自分の感じたこと・考えたことを素直に表現しつつ、相手への敬意や思いやりも忘れずに。以下に「直情径行」を取り入れたスピーチの例をあげます。

バランスの取れた生き方を目指すスピーチ例

私の座右の銘は「直情径行」です。この言葉は、自分の感情に正直に、思うままに行動することを意味します。

若い頃の私は、周囲の期待に応えることばかりを考え、本当の自分の気持ちを押し殺してしまうことが多々ありました。会社では上司や同僚の顔色をうかがい、家庭ではいい夫、いい父親であろうとするあまり、時として自分自身を見失うこともありました。

しかし、年齢を重ねるにつれて気づいたのは、人生は一度きりであり、他人の価値観に振り回されて生きるには、あまりにも短いということです。定年を迎えた今、私は「直情径行」を座右の銘として、残りの人生を自分らしく歩んでいこうと決意しています。

もちろん、感情のままに行動するといっても、それは決して身勝手になることを意味するものではありません。これまでに培った人生経験と知恵を活かし、自分の心に正直でありながら、同時に周囲への配慮も忘れない。そんなバランスの取れた生き方を目指しています。

趣味の園芸では、好きな花を心のままに育て、ボランティア活動では本当に必要だと感じる支援に取り組む。家族との時間では、建前ではなく本音で語り合う。そうした日々の小さな積み重ねが、「直情径行」の実践だと考えています。

人生の後半戦だからこそ、偽りのない自分で生きていく。それが私の「直情径行」なのです。

最後に

人生100年時代。私たちは、先人たちが経験したことのない長い後半生を生きています。だからこそ、これまでの経験で培った自分だけの価値観を信じ、心のままに、正直に生きる。そんな潔い生き方の指針として、「直情径行」を座右の銘に掲げてみるのは、いかがでしょうか。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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