母と私は同じことをしてしまっていた

夫との夫婦生活はうまくいっていたが、新型コロナの影響でお店を閉じることになり、夫婦の関係は一転。夫は運送業で働き、美冬さんは通販サイトを運営する会社で働き始め、すれ違うように。さらにその間、小学生だった子どもを義母に任せてしまうなど、美冬さんは自分の子どもを自分と同じ状況にしてしまったのだ。しかし、美冬さんと違い、子どもは母親と一緒に居られない不満をぶつけてきたという。

「子どもは、一緒にいる時間が減ったことに対する不満を訴えてきました。そして、私と夫のケンカが多くなって険悪な雰囲気を感じ取っていたのか、仲良くしてほしいとも伝えてきました。私はそんな子どもの言葉を聞いて、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。でも、借金もあって働くしかない状況で、どうすることもできずになんでわかってくれないんだという思いも持ってしまいました」

美冬さんがそのときに思い出したのは、母親のことだった。

「結婚生活や子育ての苦労も楽しさも味わって、あのとき一方的に追い詰められているだけだと感じていた母親の気持ちが少し理解できた気がしました。

当時は新型コロナのさなかということもあって実家に行くことはできなかったので、久しぶりに電話をしてみました。そしたら、『何かあったの?』とすぐに私のことを心配してくれたんです。それが本当に嬉しかった」

美冬さんの親に対する長年の怒り。その原因は、子どもとして親に何かを求めても、いつも期待外れの反応しか返ってこないという繰り返しにあった。しかし、自らも同じように仕事と子育てに追われる立場になって、初めて母親の苦しみを理解する。久しぶりにかけた電話で返ってきた「何かあったの?」という母の言葉。それは、彼女がずっと求め続けていた、自分を心配してくれる親からの、初めての素直な反応だった。母親を許したのではなく、理解した。それが、彼女を縛り続けた過去の連鎖を断ち切る、唯一の方法だったのかもしれない。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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