取材・文/沢木文

「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。

朋絵さん(仮名・62歳)は、2年前に10歳年上の夫を亡くす。夫の死後、友達をつくる活動を行い、半年前に女友達・恵麻さん(56歳)と知り合う。2人の共通の趣味は、手作りアクセサリー作り。子供もおらず独り身同士、話しは合っていたが、朋絵さんの心の中には恋愛にも似た感情が芽生え始める。

【これまでの経緯は前編で】

仕事と私との約束、どっちが大切なのか

恵麻さんは職業柄、話も聞き上手で話題も豊富。ファッションやカルチャーに詳しく、話していると刺激が多いという。

「一緒にいると、人生のステージが上がったような気がする人なんですよ。恵麻さんと知り合った半年が、私の人生の30年分くらいに相当する。最初は毎週のように会っていたんですが、出会いから4か月目には、月1回に。そして、今は1か月半前に会ってからは、連絡さえないんですよ」

朋絵さんは、基本的に自分に自信がない。「私の話なんておもしろくない」「私なんて大したことがない」とは言いながらも、それを否定することを待つようなコミュニケーションをする。

会話をしていても、いちいち「私なんてつまらない」「あなたがうらやましい」などと言うので、「そんなことないよ」とその都度言わない限り、会話が進んで行かない。

「恵麻さんにもそれはいつも指摘されていました。でもそう言わないと、相手に失礼じゃないですか。相手はすべて私よりも“上”だから、心からうらやましいと思っているので、嘘はありません」

一度、恵麻さんから「隣の芝生は青い、って言うよね。いいところを見て、想像しても実際はそうじゃないことが多いですよ」と言われたことがあるという。

「それでも私はうらやましいんです。恵麻さんと会って、私の人生が何もないと気づかされた。もっといろんなことを教えてほしいんです。それなのに、私と会いたがらない。仕事と私との約束、どっちが大切なのかと思うこともあります。もちろん、そんなことは言いませんでしたけどね」

会って話したい、教えてほしい、いろんなところに行きたい……そんなことをLINEで送るが、直近の多くは未読スルーのままだ。

男女関係なら、「ストーカー」とか「痴情のもつれ」などという言葉が当てはまるようなところもある。しかし、女性同士はどうなのだろうか。

「前みたいに会いたいだけなので、ストーカーではないと思います。別に相手を支配したいとか思っていませんし、恋愛感情もありませんから」

【思いがつのり、自宅に行ってしまう……次のページに続きます】

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