お互いがお互いのセーフティーネットだった

兄は隣県で1人暮らしをしていた。奈央子さんの話を聞いて、兄は自宅に帰るときに奈央子さんを一緒に連れて帰ったという。

「両親に角が立たないように、私を連れ出すときには『気分転換もかねて数日遊びに連れて行く』と言ってくれていました。兄の家で暮らし始めてからは、本当にしばらく何もしなかったんです。ただ生活をするだけ。兄は前日よりもただご飯を少し多く食べられただけでも褒めてくれました。

そして、その後に私の意志を聞き入れてくれて、そのまま実家を離れて兄と2人暮らしをすることになりました。兄があの実家から私を連れ出してくれたんです」

療養期間に、リワーク施設への通所を経て、別の仕事を始めた。その間も家族からの心無い言葉を浴びせられることもあったが、兄が味方になってくれたという。

「家族からは『兄に迷惑をかけるな』といった言葉を言われ続けました。両親も期待している兄の足枷に私がなることを危惧して、実家に戻って来いと何度も言ってきましたが、その度に、兄が守ってくれたんです。

今の私があるのは、兄のおかげだと思っています」

現在の兄と奈央子さんはお互いに結婚して家族を持ち、今は家族同士の交流もあるという。しかし、両親や姉とは疎遠ではないが、最低限の交流にとどめているとのこと。それが兄と奈央子さんにとって最適な距離感なのだろう。

兄は親からの過度な期待と叱咤に苦しみ、妹は親や姉からの理解が得られなかった。不当な扱いを受けているきょうだいはお互いが辛いときにそっと寄り添ったりすることで、親からは得られない安心感や愛情を互いに与え合っていた。自分たちが互いのセーフティネットになっていたのだ。それは大人になって共に成長した後も、形を変えることなく、互いにとって心強い味方であり続けていくのだろう。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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