取材・文/ふじのあやこ

一緒にいるときはその存在が当たり前で、家族がいることのありがたみを感じることは少ない。子の独立、死別、両親の離婚など、別々に暮らすようになってから、一緒に暮らせなくなってからわかる、親やきょうだいのこと。過去と今の関係性の変化を当事者に語ってもらう。
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株式会社アタムは、小学生以上の子どもを持つ親を対象に「親子のコミュニケーションに関する意識調査」(実施日:2025年1月24日~2月7日、有効回答数:小学生以上の子どもを持つ親477人(女性358人/男性119人)、インターネット調査)を実施。調査にて、「親子関係を深めるために重要だと思うコミュニケーション方法」を聞いたところ、1位は「子どもの話を聞く(53.2%)」、2位は「子どもを尊重する(33.5%)」、3位は「できるだけ会話する(14.5%)」という結果になった。
今回お話を伺った智さん(仮名・44歳)は、母親から「早く自立して家を出ろ」と冷たく扱われていた。その一方、何の努力もなく母親から大切にされている弟のことを疎ましく思い、弟とは一切言葉を交わさない関係になっていた。【~その1~はこちら】
まだ母親に優しくされると嬉しかった
智さんは学費以外で母親からの援助がなかったこともあり、早く家を出ろと言われていたが実家から大学に通っていた。大学在学中は勉強はそこそこに、自立するために授業がないときは朝から深夜までアルバイトを入れていたという。
「仲のいい母親と弟の姿を見るのが嫌で、家に居たくなかったんです。それに、自立するためのお金は切実に必要だったし、深夜までアルバイトをすることで家を出る意思が私の中にちゃんとあることを母親に暗に示したかった」
大学卒業から半年ほど前の時期に智さんは1人暮らしを始める。
「就職も決まって、お金も貯まったので、卒業するまで待たずに1人暮らしを始めました。新居は母親に連帯保証人になってもらい、私が実家で使っていた家具や食器などは持って行っていいとも言ってくれました。
最後にそんな親らしいことをされて、せいせいするつもりだったのに、家を離れるときは少しだけ寂しかったです」
別々に暮らし始めてから、母親からの連絡は一切なく、疎遠状態だった。その代わりに弟からの連絡は定期的にあったという。
「弟とはお互いの連絡先も知らなかったのですが、家を出るときに弟から連絡先を聞かれて交換していました。母親からは一切連絡がないのに、弟からは『正月、帰ってくるの?』といった大型連休に帰省するのかどうかを伺うメールが定期的に来ていたんです。私は、その連絡を母親が弟にさせているものだと思い、母親が望むならと、メールがあれば帰省するようにしていました」
【「私はずっと子どもじゃなかった」。次ページに続きます】
