充分遊んであげるのも大事
「粗相の問題の多くは、トイレ環境を猫好みに変えることで改善されます。トイレ環境を工夫しても直らないという場合は、他に原因があるのかもしれません。例えば、遊んで欲しくてアピールのためにわざと飼い主さんのベッドで粗相をすることだってあるんですよ」
仕事が忙しくても、帰宅した時やご飯を食べている時、テレビを見ながらなど、ちょっとした時間を利用して5分~10分だけでも遊んであげるのがいいと、入交先生。
「ながら遊びでも大丈夫です。飼い主さんがテレビを見る時が自分の遊びの時間、と認識するようになるので、猫さんもその時間を楽しみにするようになります」
健康面のチェック、トイレ環境改善、遊び時間の増加で、多くの場合、一般的な粗相の問題は解決されると入交先生はいいます。
それでも粗相が直らないようなら、専門医や動物行動認定医に相談した方がいいそうです。個体や住んでいる環境などにより、問題を起こす原因となる可能性は無数にあるので、個別診断でひとつひとつ検証して原因を探る必要があります。
Iさんが最も心配しているという「嫌われている?」という疑惑については、「安心して下さい」と入交先生。
Iさんの布団だけで粗相をするのは、嫌われているというよりも、一緒にいたい気持ちでやっている可能性もあります。また、一度そこでしたことによって、そこでする習慣のようになっている可能性があるそうです。臭いなどから、「ここでする!」と決めてしまっているのかもしれません。猫は決して悪意でやっているわけではないのです。
猫は飼い主さんのことが大好きで、かまって欲しくてアピール行動をすることはあっても、嫌いだからといって粗相をするということはありません。
ただ、飼い主さんのご家族の中でも、特定の人物に何らかのストレスを感じている場合もあり、多くはかまって欲しいのにかまってもらえないことからくるストレスや、どのように接していいのかわからないなどのストレスも考えられます。
だから、「嫌われているかも」「バカにされてる!?」なんて、考えなくても大丈夫です。むしろ、愛され過ぎている可能性の方が高いくらいだと、入交先生は太鼓判を押してくれました。
≪ご注意≫
実際の診療では、まず2時間ほどかけてカウンセリングを行ない、それぞれの家庭の状況などを鑑みて個別に診断します。ここでの解答はあくまで動物行動学の一般論に基づくものであり、例外も多々あることをご了承下さい。
文/一乗谷かおり
監修/入交眞巳
指導/入交眞巳(いりまじり・まみ)
日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)卒業後、米国に学び、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。日本ではただひとり、アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。北里大学獣医学部講師、日本獣医生命科学大学獣医学部講師を経て、現在は日本ヒルズコルゲート株式会社に務める傍ら、動物病院での診察も行っている。ねこ医学会学術理事。
■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。