今や「ペット」というより大切な家族の一員となっていることも多い猫ですが、日々の生活や行動パターンについては、意外と知られていないことが多いようです。

人間や犬の行動に当てはめて考えて、まったく違う解釈をしてしまっていることも少なくありません。昔から猫を飼っているから猫の性格や習性を熟知していると思っていても、じつは勘違いしていたということが結構あるようです。

そこで、動物行動学の専門医・入交眞巳先生(日本獣医師生命科学大学)にお話を伺いながら、猫との暮らしで目の当たりにする行動や習性について、専門的な研究に基づいた猫の真相を探っていきたいと思います。

大けがをして保護されたわさびちゃん。よちよち歩きの頃からキャリーに入って病院に行っていたので、病院に行くのを怖がりませんでした。

大けがをして保護されたわさびちゃん。よちよち歩きの頃からキャリーに入って病院に行っていたので、病院に行くのを怖がりませんでした。

子猫も社会勉強しています

これから猫と暮らし始めるぞという時に、最初に気になるのはやはり、新しく家族になる猫さんが、自分のことを好きになってくれるだろうか、ということではないでしょうか。

猫は「ツンデレ」が魅力のひとつかもしれませんが、一日でも早く心を開いてくれるよう期待してしまうのも、飼い主としては無理からぬことです。

動物行動学的には、猫は生まれて2~7週齢くらいが、人に対する「社会化」の時期といわれています。

猫に限らず、人も含めた多くの動物には、それぞれの「社会化期」があります。ここでお話しする猫の社会化とは、人間でいう「幼齢期社会化」のことで、多様な社会関係の中で社会性を習得する時期と考えられます。

簡単に言うと「社会化期」とは、社会で形成されるルールを身につける学習をしたり、自分の周りにいる他者との関係を形成したりする時期を指します。

子猫の場合、社会化期の2~7週齢くらいの間に新しい環境に順応し、自分を取り囲む人や他の動物とうまく付き合っていく方法を身につけていきます。

よく「猫は犬が嫌い、犬を怖がる」と思われがちですが、社会化期に犬と仲良く暮らすことを覚えた猫さんですと、少なくとも仲良くなったその特定の犬のことを怖がることはありませんし、猫さんによっては他の犬とも仲良くできる可能性もあります。

人との関係も同様で、2~7週齢くらいの時に人と仲良くなった子猫は、比較的人馴れした猫さんに成長します。もちろん例外もあるでしょうし、特定の人しか好きじゃない、という猫さんもいるでしょう。それは人間同士だって同じですよね。

自分が産んだ子猫はもちろん、他のお母さん猫の子供も育てた肝っ玉母さんのにがりちゃん。にがりちゃんは、子育てを通して子猫たちにいろんなことを教えてあげました。

自分が産んだ子猫はもちろん、他のお母さん猫の子供も育てた肝っ玉母さんのにがりちゃん。にがりちゃんは、子育てを通して子猫たちにいろんなことを教えてあげました。

キャリーでの外出も怖がらない猫になる

社会化期に積極的にキャリーに慣らして外に連れて行くと、例えば動物病院に行くこともさほど怖がらない猫さんになれますし、災害時に一緒に避難する時もキャリーに入って避難所に行くのも比較的抵抗がなくなるようです。

最近は「キトンパーティー」などといって、飼い主さんと子猫の飼い猫さんとで動物病院などで子猫専用のパーティーが開催されることもあり、そうした場所で他の子猫や人と触れ合う機会をもあります。獣医さんが飼い主さんに猫の歯磨き指導をしてくれるなど、ためになる情報も得られます。獣医さんと触れ合うことで、動物病院での診察時もそんなに緊張しない落ち着いた猫さんに成長してくれるかもしれません。

外に連れて行くのがいいといっても、家の外に出入り自由という意味ではありませんよ。家の外に平気で出て行ってしまう猫さんに成長すると、交通事故に遭ったりする危険もありますので、その辺りは充分注意してください。必ずキャリー(ケージ)に入れてから家の外へ出ましょう。

ちなみに、生後2~7週齢くらいが社会化期といわれてはいますが、この時期が過ぎたらもう順応できない、というわけでは決してありません。この時期に社会学習をすると比較的スムーズに順応しやすいというだけで、成猫になってからでも、学習と順応のチャンスは充分あります。

すこし時間がかかったり丁寧に行う必要がありますが、これまでにも何度かお話してきましたが、なんといっても、猫は学習能力の高い動物ですから。

また、子猫の社会化の時期は、離乳の時期とも部分的にかぶります。子猫は生後4週齢くらいに乳歯が生え始める頃から徐々に離乳を始め、7週齢くらいで離乳を完了するのが一般的です(時期を過ぎてもいつまでもお母さん猫のおっぱいを吸っている猫さんもいますけどね)。

お母さんと一緒にいることの大切さ

人との社会化期を過ぎ、もうすぐ離乳完了、でもまだちょっと早いかなというくらいの早期に離乳をしてしまうと、子猫は不安傾向が強くなる可能性が高いです。

また、母猫が栄養を充分に与えられない状態で妊娠をして子猫を産んでしまうと、子猫たちは情緒不安定になりやすく、成長の遅延も見られたりします。野良猫さんたちに餌やりをしていると、このような不幸な子猫たちが増える可能性があります。

野良猫が道にいても、かわいそうだからといって中途半端に餌を与えないで下さい。もし餌を与えるのであれば、自分の猫として避妊、去勢手術をしてあげた上で、きちんと自分の子として飼ってあげましょう。

社会化期のうちに他の猫や人、他の動物と触れ合う機会の多いわさびちゃんちの保護猫たち。すぐに順応してくれて、みんなで仲良く、楽しく過ごしています。

社会化期のうちに他の猫や人、他の動物と触れ合う機会の多いわさびちゃんちの保護猫たち。すぐに順応してくれて、みんなで仲良く、楽しく過ごしています。

地域によっては、本当の意味でのかわいそうな猫の数を減らすために「地域猫」の取り組みを行なっています。避妊、去勢をしたうえで猫に個体識別を行ない、餌をあげる場所を決め、時間を指定して掃除を行ないトイレも設置し、地域のみんなで合意の上、野良猫を減らすことを目的として現在いる猫を見守る取り組みです。

ただ餌をあげるのではなく、本当の意味での「かわいそうな猫」を減らす取り組みです。

また、離乳などを含めて母猫は色々子猫たちに社会について教えていますので、8週齢くらいまでは母猫と一緒にいさせたほうが良いようです。

ペットショップであまりにも小さな子猫が売られていることがありますが、消費者が厳しい目で審査しなければ、早すぎる離乳、販売の状況は改善されません。

文/一乗谷かおり
監修/入交眞巳

入交眞巳さん

指導/入交眞巳(いりまじり・まみ)
日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒業後、米国に学び、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。日本ではただひとり、アメリカ獣医行動学専門医の資格を持つ。北里大学獣医学部講師を経て、現在は日本獣医生命科学大学獣医学部で講師を勤める傍ら、同動物医療センターの行動診療科で診察をしている。

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累計21万部を突破した「わさびちゃんシリーズ」の 第1弾『ありがとう! わさびちゃん』(小学館刊)。

■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。

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