
冠婚葬祭の際、当事者に祝儀や香典を渡すのは、社会通念上ごく一般的なことです。
会社の従業員に慶事(祝いごと)や弔事(身内の死など不幸なこと)があったとき、会社から「慶弔金」として一定のお金が支給されることがあります。このお金はどのような扱いがされるのでしょうか?
今回は人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が、会社の慶弔金について解説していきます。
目次
慶弔金とは? 慶弔見舞金との違いはある?
慶弔金の相場はどれくらい? 支給基準と役職ごとの目安を紹介
慶弔金は課税対象になる? 税務処理と注意点を解説
まとめ
慶弔金とは? 慶弔見舞金との違いはある?
「慶弔金」や「慶弔見舞金」はもらった人の収入になるのでしょうか? 慶弔金の意味も含めて見ていくことにしましょう。
慶弔金の読み方と基本的な意味
慶弔金は「けいちょうきん」と読みます。
多くの会社では慶弔金に関する制度が設けられていると思います。
慶弔金制度(または慶弔見舞金制度)は、従業員またはその家族に祝いごとや不幸があったとき、会社から一定の金額が支給される制度です。
具体的には、従業員の結婚、従業員本人または配偶者の出産、従業員本人または家族の死亡などが対象になります。
会社によっては、従業員が被災したときや傷病に対する見舞金も規定されている場合もあります。慶弔金の支給は法的に義務づけられているものではありませんが、ほとんどの会社が「慶弔金規程」などを作成して、対象者や支給基準などを定めています。
慶弔見舞金とは? 慶弔金・香典・祝儀との違いを解説
慶弔金と慶弔見舞金は同じ意味で使われることが多い言葉です。両者とも、一般に対象者となる従業員に制度の規定に基づいて支給するお金のことを指します。
ただし、慶弔金は時には、香典・祝儀と同義に扱われることもあります。香典とは葬儀の際、霊前に供えるもの、結婚の祝儀は結婚する当人を祝う際に渡すものです。
慶弔見舞金というのは、少し意味が変わってきます。慶弔見舞金制度は、会社の福利厚生の一環として、従業員に一定の金額を支給するものです。
香典などとは、渡すタイミングや目的が異なります。よくある説明としては、「従業員に対する福利厚生として、祝い事や不幸があった従業員に慶弔金を支給するのが慶弔見舞金制度である」といった表現が見られます。

会社規定における慶弔金の位置づけ
一般的な慶弔金は、会社の福利厚生費として位置づけられています。従業員が慶弔金をもらっても、労働基準法上の賃金にはなりません。
賃金というのは「労働の対価」として受け取るものだからです。また、健康保険における報酬や、雇用保険の算定対象となる賃金にも相当しません。
会社の経費として支出されます。会社とは別に、労働組合が慶弔金の制度を設けていることもあります。これは労働組合独自の「慶弔金(慶弔見舞金)規程」などにしたがって、支給が決定されます。
これもまた受け取る側の賃金にならないことは同様ですが、支給されるお金は会社の経費ではありません。労働組合の組合費から、慶弔金が支給されます。そのため、ほとんどの場合、支給対象者は組合員とその家族に限定されており、非組合員である上級管理職などは対象者になっていません。
慶弔金の相場はどれくらい? 支給基準と役職ごとの目安を紹介
慶弔金というのは、一般にいくらくらいの金額が規定されているのでしょうか? 金額の相場と役職などによって違いがあるのかどうかなどを調べてみましょう。

一般的な慶弔金の相場とは? 結婚・葬儀のケース別に紹介
慶弔金の支給については特に法的な決まりがあるわけではありません。けれども平成30年時点の厚生労働省発表の政府統計においても、制度がある企業はおよそ9割にのぼっています。
慶弔金の金額や支給基準については、多くは会社の慶弔金(慶弔見舞金)規程などで、決まっています。統計機関などの資料を参考にすると、一般に次のような金額が相場となっています。
結婚祝い金 | 本人 | 5万円 |
子 | 1万~1万5千円 | |
出産祝い金 | 本人 | 1万~3万円 |
配偶者 | 1万~3万円 | |
死亡弔慰金 | 本人 | 5万~100万円 |
配偶者 | 5万円 | |
子・父母 | 3万円 | |
傷病見舞金 | 1万~2万円 | |
災害見舞金 | 5万~15万円 |
もちろん支給は義務ではないので、あくまで社内ルールでの目安ということになります。
会社によって金額は相違があります。特に本人死亡の場合の弔慰金は、会社が従業員に対する保険に加入しているかどうかなどの関係もあり、差が大きくなっています。
役職ごとに支給額は変わるの? 会社規定に基づく支給基準
慶弔金は役職や勤続年数によって、金額を変えている場合もあります。支給基準として、「勤続6か月以上」や「正社員のみ」などの条件を設けていることもあります。ただし、役職にかかわらず金額は同一という会社も少なくありません。
支給基準や金額の決定が曖昧だと、トラブルにつながることがあります。公平性を確保するためにも、慶弔金(慶弔見舞金)規程は、就業規則に組み込むなどして従業員に周知しておくことが重要です。
また、共済会や労働組合からの慶弔金は、掛金や組合費などから支出しています。会社の福利厚生費とは異なるので、支給基準や金額は共済会・組合の規定によります。
慶弔金は課税対象になる? 税務処理と注意点を解説
ところで、慶弔金は所得税の課税対象になるのでしょうか? ここでは一般的な注意点について解説します。
会社から支給される慶弔金の税務処理
慶弔金は基本的には会社の福利厚生費として処理されます。賃金ではないので、受け取った側の給与所得になることはありません。したがって原則として税金はかからないことになります。
ただし、非課税になるためには、慶弔金の額が「社会通念上相当である」という条件がついています。いくらまでならと限定することは難しいものですが、一般的な慶弔金規程などで定められている額なら、非課税のラインを超えることはないでしょう。
しかし、常識的な相場を逸脱した高額である場合は課税されることもあります。また、従業員本人が死亡した時、慶弔金とは別に死亡退職金支払われる場合、退職金は課税対象となります。
まとめ
慶弔金(慶弔金見舞金)制度は会社にとって一定のコストがかかりますが、従業員の福利厚生を充実させるというという点では意義のある制度です。
会社にとっても経費として計上できるのでメリットもあります。会社、従業員双方のために、制度を整備することは重要です。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
