大学時代、5歳年上のホステスと恋をする
平和主義の卓治さんは、暴力とは無関係の学生時代を過ごす。
「進学した都立高校でも学生運動があって、訳がわからないまま卒業。猛勉強して入った大学でもそうでした。授業をしていると学生たちが徒党を組んでやってきて、“これから討論する”とがなりたてる。すると、教授は出て行かざるを得ない。だって、学生から怒鳴られたり、殴られたりするのは誰だって嫌でしょ。こっちも“授業をしてほしいです”と言えば、カッときている奴に殴られる。どうしょうもないから教室から出て、図書館に行って本を読むんです」
ヘルマン・ヘッセ、トーマス・マン、アンドレ・ジッドなどを読んでいたという。
「静かに本を読んでいると、可愛い女の子が“それ、面白いの?”と来てくれるわけですよ。当時、大学に通う女の子はほとんどいない。だから希少な存在です。僕はドキドキしながら、素知らぬ顔で、かつて読んだ本を勧める。そして、日が暮れるまで読む。そして“ご飯でも食べよう”という話になる。蕎麦屋に行って、帰りの電車賃を気にしながら、たぬきそばをすするわけですよ。お金もないから割り勘で…18歳の僕は、本当に僕はウブでした」
“手元不如意”では格好がつかないと、卓治さんはアルバイトを始めた。
「新宿は歌舞伎町の喫茶店のボーイになったんです。ここは台湾の人がオーナーで、僕を見るなりすぐ採用してくれました。この方はものすごいオーラを放っている大人物で、1回しか話をしたことがありませんが、器の大きさがわかるんです。お客さんも場所が場所だけに、今でいう反社会的勢力の人もいました。皆さん個人となると魅力的でしたよ」
卓治さんは、背が高く整った顔立ちをしており、明るく優しい雰囲気がある。暴力がない家庭で育った平和的な雰囲気をまとっている。
「あと、母の影響もあります。母は下町の質屋の総領娘として生まれ育っていて、目配り気配りを自然にするんです。そんな姿を目で見ていたから、“気が利く”と言われることは多かったですね。モノを音を立てないように置いたり、次の人が作業しやすいように、スペースを空けたり、ちょっとしたことでいいんですよ」
当然、女性客からもモテて、さまざまな恋愛もしたという。
「休憩時間に本を読んでいると、“それ何? 面白いの?”と女性が来る。本を読んでいれば、女の子にモテた時代なんです。ここで僕はお客さんとして来ていた、5歳年上のホステスをしている女性と付き合うことに。彼女は長野の故郷に娘がいて、“いつか一緒に暮らすの”と言っていました。彼女が働いていたのは、100人以上の客を収容し、生バンドが常駐しているグランドキャバレー。高度経済成長に咲いた華のようなお店でした」
大学卒業まで彼女と交際するも、彼女が長野の故郷に帰ってからは、音信不通だという。
【本が溜まり続けて1万冊以上に……その2に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。
