
10人以上の労働者が働く事業場では、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出ることが法で義務付けられています。この10人の中には、パート・アルバイトの人もカウントしなければなりません。この場合、パートタイマーのための就業規則は作る必要があるのでしょうか?
今回はパートタイマーの就業規則について、人事・労務コンサルタントとして、「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。
目次
パートタイマーに就業規則は必要? 適用義務と注意点を解説
パートタイマーの有給休暇・労働時間・休憩時間はどうなる?
まとめ
パートタイマーに就業規則は必要? 適用義務と注意点を解説
就業規則はパートタイマーにも適用されるのでしょうか? まず、法令の定めと注意点について整理してみましょう。
パートタイマーに就業規則を適用する義務はある? 労働基準法に基づく基本ルール
パートタイマーとは、週の労働時間が正社員に比べて短い労働者のことを指しますが、労働基準法上の「労働者」は正社員とパート・アルバイトの区別はありません。
したがって、就業規則はパートタイマーにも適用されることになります。ただし、パートタイマーと正社員では労働条件や職責に相違があるのが普通です。
就業規則の中には、休職制度や退職金、賞与など、パートタイマーに適用されないことの多い規定も存在します。
この場合、パートタイマーを対象としたルールを併記するか、パートタイマー専用の就業規則を作成する必要が生じてきます。また、就業規則の作成・変更するときは、事業場の労働者の過半数を代表する者の意見を聞かなければならないとされていますが、パートタイマーの代表の意見を聞くことは努力規定となっています。
パートタイマー就業規則を整備するメリット
一般社員向けの就業規則をパートタイマーにも適用するのであれば、会社はパートタイマー専用の就業規則を作成する義務はありません。労働条件を明示して契約を結べば、専用の就業規則は特に必要ないと考える会社も多いでしょう。
けれども、パートタイムで働く従業員が増えてくると個別の労働契約だけでは不十分ということも生じてきます。
正社員向けの就業規則しかないと、パートタイマーにどこまで適用されるかの線引きが曖昧になってしまいます。 正社員とパートタイマーの就業規則を分けて作成することによってルールが明確になり、無用なトラブルを防ぐことができます。

小規模事業所でのパートタイマー就業規則の導入時の注意点
パートタイマー専用就業規則を作る際に配慮しなければならないのは、正社員との待遇差です。極端な差を設けることは、特に小規模な事業所では正社員との間の分断を招きかねません。パートタイムで働く人たちもモチベーションを失ってしまいます。
パートタイム労働法では、「正社員と短時間労働者の待遇について不合理な相違を設けてはならない」と規定されています。
職務の内容や責任の程度などを考慮しても、合理性がないと考えられるほどの差をつけることは認められていないのです。パートタイマーと正社員が働く職場では、それぞれの役割や仕事の内容を踏まえたうえで「均衡のとれた待遇」を確保することが重要です。
パートタイマーの有給休暇・労働時間・休憩時間はどうなる?
労働基準法における「労働者」には、正社員とパートタイマーの区別はありません。しがって有給休暇・労働時間・休憩時間などの規定は、どちらも同じに適用されます。具体的に内容を見ていきましょう。

パートタイマーの有給休暇取得条件
有給休暇が付与される条件は、雇用された日から6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤することです。付与される日数は週の所定労働日数によって変わってきます。
通常の労働者の場合、有給休暇の付与日数は勤務して6か月経過後に10日、その後1年ごとに付与日数が20日を限度に加算されていきます。
週の所定労働日数が4日以下かつ週の所定労働時間が30時間未満の場合は、「比例付与」と言って通常よりも少ない日数が付与されます。
比例付与の計算式は、原則の付与日数×(対象者の週所定労働日数÷5.2)です。
注意しなければならないのは、比例付与になるかどうかの判断は週の所定労働日数であって、所定労働時間は問題にならないということです。たとえば、週4日1日6時間勤務の場合は比例付与の対象となりますが、週5日1日4時間勤務の場合は原則の付与日数になり、比例付与の対象にはなりません。
労働時間と休憩時間の規定
労働時間の原則は、休憩時間を除き、1日について8時間、1週間について40時間超えないことであり、労働時間の最長限度を法定労働時間と言います。
この時間を超えて働いた場合は時間外勤務となります。パートタイマーであっても、繁忙期などで法定労働時間を超えて働いた場合は、法令通りの割増賃金が発生します。
労働の途中で付与される休憩時間は、社員かパートタイマーかにかかわらず、1日の労働時間の長さで決まります。 付与すべき休憩時間は1日の労働時間が6時間以下の場合は不要、6時間を超えて8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間と規定されています。
労働時間管理の注意点
パートタイマーの労働時間管理においては注意すべき点があります。
パートタイマーは、いわゆる「年収の壁」を意識して働く人が少なくありません。
所得税が課税される103万の壁、社会保険の扶養から外れる130万の壁(51人以上の労働者がいる企業で働く場合は106万円の壁)などが存在します。
一定の収入以下で働きたい人は、シフト制などで働く場合、労働時間、月の収入などを計算してシフトを組む必要があります。また、残業などで労働時間を超えてしまう場合は、割増賃金が発生するので、その分も考慮しなければなりません。
まとめ
労働基準法の「労働者」の定義では、パートタイマーも正社員も区別はありません。基本的に、法律は同じ基準で適用されます。けれども、職責や職務内容に違いがある以上は、就業規則の規定の適用の有無、待遇の差が生じることはやむを得ません。
トラブルを避けるためには、パートタイマーを対象とした就業規則を整備してルールを明確にすることが望ましいと言えます。パートタイマーの就業規則を作成する際には、正社員と間で不合理な差を設けず、均衡の取れた待遇を確保することがポイントです。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
