
最近、ニュースなどで「年収の壁」という言葉をよく耳にするようになりました。「年収の壁」というのは税金の壁、社会保険の壁などがありますが、壁の問題をわかりにくくしているのは「国民年金の第3号被保険者」という存在です。
第3号被保険者は該当者が多いにもかかわらず、内容を理解している人は意外と少ない制度です。今回は、第3号被保険者について人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。
目次
第3号被保険者とは? わかりやすく解説
第3号被保険者の手続きに必要なこと
第3号被保険者制度のメリット・デメリット
年齢によって注意すべきポイント
まとめ
第3号被保険者とは? わかりやすく解説
第3号被保険者について理解するためには、公的年金制度の仕組みについて知る必要があります。年金制度の概要と合わせて、第3号被保険者制度について見ていきましょう。
第3号被保険者の定義
まず知るべき基本は、年金は2階建てだということです。1階部分は、全国民を対象とした国民年金です。2階部分には、会社員・公務員などが加入している厚生年金が上乗せされます。国民年金の被保険者には、原則として3つの種別があります。
第1号被保険者は、日本国内に住所のある20歳以上60歳未満の人で、第2号・第3号被保険者でない人が該当します。第2号被保険者は、厚生年金の被保険者です。第3号被保険者というのは、第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者のことを指します。原則として、日本国内に居住していることが条件です。
第1号・第2号被保険者との違い
第3号被保険者は、第1号・第2号被保険者とは大きな違いがあります。それは、第3号被保険者である期間は、国民年金の保険料を支払わなくてよいということです。第1号被保険者は、自営業者、学生やフリーターなどが該当しますが、毎月の保険料を納付する義務があります。
学生の場合は、学生納付特例制度を利用すれば保険料の納付は猶予されます。けれども、猶予された期間はその後さかのぼって納付をしないかぎり、老齢基礎年金の額の計算の基礎となる期間にはカウントされません。第2号被保険者は厚生年金保険料を納付することで、国民年金の保険料も納付したことになります。
第3号被保険者は、保険料を納付する必要はありません。この期間は学生納付特例とは異なり、すべて老齢基礎年金の計算の基礎に組み入れられます。仮に20歳から60歳まで第3号被保険者だとしたら、40年間国民年金の保険料を納付した場合と同じとみなされます。

第3号被保険者の手続きに必要なこと
第3号被保険者になるためには、特別な手続きがいるのでしょうか? また、年金の額はいくらぐらいになるのでしょうか? 手続きと年金額の計算について解説します。
第3号被保険者の手続き
第3号被保険者になることができるのは、配偶者が第2号被保険者であること、本人が20歳以上60歳未満であることが条件です。さらに、原則として年収が130万円未満でなければなりません。それ以上の収入がある場合は、第2号被保険者になるか、第1号保険者として自らが国民年金の保険料を納付する必要があります。
また、本人が一定の規模以上の会社に雇用されている場合は、週の労働時間20時間以上、年収106万円以上で厚生年金加入の対象となります。厚生年金に加入すると第2号被保険者となり、第3号被保険者ではなくなります。第3号被保険者の届出は、第2号被保険者である夫(妻)の勤務先で提出します。
扶養認定がされると、年金事務所から「第3号被保険者該当通知書」が送られてきます。第3号被保険者から外れる時も、同様に配偶者の勤務先で届出をすることになります。
第3号被保険者が受け取る年金とは
第3号被保険者の期間は保険料の納付義務はありませんが、国民年金保険料の納付済期間と同じとみなされます。国民年金の老齢基礎年金は、40年間(480か月)保険料を支払った場合、年81万6千円となります(令和6年)。支払った月数に応じて金額は増減されますので、比較的見込額は計算しやすいでしょう。
なお、婚姻前および婚姻期間中に第2号被保険者の期間がある時は、その期間の報酬に応じた厚生年金が国民年金に上乗せされることになります。
第3号被保険者制度のメリット・デメリット
第3号被保険者制度は、何かと物議の多い制度です。この制度のメリット・デメリットについて確認してみましょう。
制度のメリット
第3号被保険者制度は、昭和61年4月以降に施行された制度です。それ以前は主婦の無年金者も多く、高齢女性の貧困を生み出す一因となっているという問題がありました。当時は結婚・育児を経て働き続ける女性はまだ少なく、専業主婦になる女性が多かったという背景があります。
第3号被保険者制度の創設によって、厚生年金の被保険者に扶養されている配偶者も国民年金の被保険者になりました。長い間専業主婦だった人でも、自分自身の年金を受給できるのは大きなメリットがあります。
制度のデメリット
第3号被保険者制度には、デメリットもあります。この制度が、女性の社会進出を阻害しているのではないかという問題です。働いて社会保険に加入することは、決して損なことではありません。健康保険の給付も手厚くなりますし、自らの厚生年金を増やすことができます。
実際はパートタイマ―などで働く女性の多くは、年収の壁を意識して扶養の範囲で働くことを選択しているのが実状です。けれども、賃金が上がり、女性の活躍の場も増えている昨今、就業調整して勤務時間を減らすことはマイナスになる場合もあることは否定できません。
批判される理由「ずるい」という意見に対して
第3号被保険者制度は、「公平でない」という批判を受けることがしばしばあります。専業主婦であっても、夫が第1号被保険者であった場合は第3号被保険者にはなれませんので、国民年金の保険料を支払う義務が生じます。また、共働き夫婦など2人とも第2号被保険者である場合も、この制度の恩恵は受けられないことになります。
第3号被保険者は保険料を納付する必要はなく、配偶者の保険料が増額されることもありません。この制度は第2号被保険者全体で支える制度だからです。この点が、保険料を払っている人から、「優遇されすぎている」「ずるい」という意見が出る理由となっています。また、働く女性が増えた今、昭和に施行された第3号被保険者制度は、実状にあっていないという指摘もあり、見直しの議論も出ています。
年齢によって注意すべきポイント
続いて、注意すべきポイントを紹介します。
第3号被保険者にならないケース
第3号被保険者は、20歳以上60歳未満であることが条件です。たとえ、結婚して第2号被保険者に扶養されていたとしても、20歳前の期間や、60歳以上になってからの期間は第3号被保険者にはなりません。また、60歳未満であっても、夫が会社を辞めた、退職して年金生活者になったという場合も第3号被保険者に該当しなくなります。
夫が第2号被保険者ではなくなった場合は、専業主婦でも第1号被保険者となり、保険料の納付義務が生じますので注意が必要です。
まとめ
第3号被保険者としてパートなどで働いる人は、「扶養の壁を超えてはいけない」と考えている人は多いようです。けれども、社会保険に加入して働くことは自らの収入アップや将来の年金増額につながります。制度の内容をよく理解したうえで、働き方を選択することが大切です。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
