「孝行のしたい時分に親はなし」という言葉がある。『大辞泉』(小学館)によると、親が生きているうちに孝行しておけばよかったと後悔することだという。親を旅行や食事に連れて行くことが親孝行だと言われているが、本当にそうなのだろうか。

2024年11月、国立社会保障・人口問題研究所は、一人暮らしをする75歳以上の高齢世帯の割合は増え続け、2050年の全国平均は28.9%になるという推計値を発表した。この背景には、少子高齢化と、結婚しない人が増えていることがある。近い将来、都市部を中心に身寄りのない高齢者が増えていき、地域の対策が必要になるのではないか。

東京都内で息子と同居している知子さん(77歳)は「気ままな一人暮らしがいいと思っていましたが、誰かと一緒にいる安心感は、桁違い」と語る。

【これまでの経緯は前編で】

膝が痛くて動けず、引きこもり生活から見つかった緑内障

2階の3つの部屋に詰め込まれていたものを全て片付け、知子さんの生活環境を1階に集約させた。リビングにベッドを持ち込み、思い出の品を陳列し住み心地は格段に向上した。

「それが、片付けの無理が祟ったのか、膝が痛くて立てなくなってしまったんです。重い荷物を持って、階段を上がったり下がったりしていたら、膝に負担をかけてしまったんでしょうね。それにうちは昔の家だから、玄関の上り框が高い。足が痛くて降りられないんです」

リビングにずっといても生活はできる。ネットスーパーで買い物をして、当座を凌いでいたという。息子に言わなかったのは、息子に叱られると思ったことと、迷惑をかけたくない一心だったという。

「引きこもり生活も、気ままで悪くないんですが、スーパーで顔見知りとおしゃべりする楽しみがなくなった。このまま認知症になったらダメだと思って、頑張って外に出ようと思ったんですが、やはり膝が痛い」

生前の夫に「僕が死んだら、地域包括支援センターに連絡してね」と言われていたことを実行しようと思ったが、自分はまだ若い。他に困っている人がいるのに、介護の手を借りるのは、申し訳ないと思った。

「うだうだしているうちに、今度はお嫁さんがウチに来たんです。彼女はITのエンジニアをしており、近くの客先のところに立ち寄ったので、ウチにも様子を見にきたと。私の周りにいる人は、ほんとにみんな優しいですよね」

嫁は、1か月間、家から出ていないという知子さんに驚きながら、地域包括支援センターに連絡した。介護認定には主治医の診断書が必要だという。そこで、タクシーを呼び知子さんを整形外科医に連れて行き、診断書をもらう。

「さらに、お嫁さんは私を眼科に連れて行ったんです。緑内障と白内障の検査をするという。私は“そんなにお婆さんじゃないから、大丈夫よ”と言ったのですが、診断は軽度の緑内障でした。視界が1/4ほど欠けており、このまま放置していたら、失明していたと聞きゾッとしました」

気持ちは若くても、実際は老いている。大量の荷物を捨てる終活で起きた膝の痛みで、思いがけない重大な病を見つけることができ、幸運だった。

「迷惑をかけたくないと思っていましたが、健康でなければ、皆に負担をかける。検査が終わって、診察室から出て、鏡を見ながら、“あれ? 私?”と思ったら50歳のお嫁さん。そして、一緒にいるヨタヨタしたおばあちゃんが私だったんです(笑)。図々しいにも程があるという話ですが、そのくらい自分の老いには気づかない」

【近くにアパートを借りようとしたが、高齢者は借りられない…次のページに続きます】

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